【社説】米中協議 中国は国際的責任を果たせ
米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)と中国の外交担当トップである楊潔篪共産党政治局員がローマで会談した。両氏の会談は2021年10月以来、5カ月ぶりである。この会談でサリバン氏は楊氏に対し、ウクライナ情勢をめぐる中国とロシアの連携に深い懸念を伝えた。
制裁の抜け道探るロシア
現在、ウクライナに攻め込んだロシア軍は激しい抵抗に遭い、戦線は膠着(こうちゃく)状態が続き、プーチン大統領が目論(もくろ)んでいた短期戦での決着は不可能となった。ロシア兵の犠牲は増え、戦費はかさみ、武器弾薬は底を尽き始めたとの報道もある。そのため苦境にあるロシアは中国に支援を要請し、中国がこれに応じて武器の提供などで協力する意向と伝えられている。
中国が支援に回れば、米国が主導する世界規模の対露経済制裁網に穴が開くことになる。ロシアの経済や軍事力に致命的な打撃を与えることができず、ウクライナへの攻勢が強まる恐れもある。
このため中国の行動がもたらす影響の重大性を指摘し、対露支援に動かぬよう中国に釘を刺すことが米側の目的であった。会談で中国側はロシアへの配慮を示すなど米国との溝は埋まらなかったとみられる。
だがロシアの暴挙を許さず、ウクライナでの戦争を鎮静化させるには、中国も国際社会と歩調を合わせ、ロシアの要請を拒絶し圧力を掛けねばならない。支援に踏み切りロシアに追随すれば、中国もロシアと同様、国際社会からの強い非難に晒(さら)されることになるであろう。
ウクライナに加え、中東や北東アジアでも国際情勢は厳しさを増している。中東では、妥結間近と言われたイラン核合意の修復に向けた交渉が中断に陥った。経済制裁に苦しむロシアが、自国に科された制裁の対象からイランとの取引を除外するよう求めたことが原因だ。交渉を軌道に戻すには、ロシアが制裁の抜け道に悪用できない形で核合意を纏(まと)め直す必要があり、ロシアと関係が深く、交渉に当初から参加している中国が果たす役割は大きい。
一方北東アジアでは、北朝鮮が今年に入って既に10回も飛翔体の発射を繰り返している。18年以来自粛していた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を成功させ脅威を高め、途絶えている米国との核交渉を再開させることが狙いで、今後も発射実験を続けるものと考えられる。それを防ぐため、中国は北朝鮮に圧力をかけて核やミサイル実験をやめさせ、また米国と協力して対話に乗り出すよう北朝鮮に促し、この地域の安定と緊張の緩和に努める立場にある。
対露支援を自粛せよ
国際秩序を不安定化させているロシアやイラン、北朝鮮に強い影響力を及ぼすことのできる国は中国をおいてほかにない。中国は国際社会の一員としての自覚を持ち、対露支援を自粛するとともに、国際秩序の安定と平和を阻害する行動に出ぬようこれら3国に自制を促すべきである。また米国だけでなく日本や自由諸国も、中国に責任を果たすよう強く働き掛けていく必要がある。