【上昇気流】旧ソ連の反体制作家アレクサンドル・ソルジェニーツィン氏
「ウクライナ」が報じられるたびにこの人の顔が浮かぶ。アレクサンドル・ソルジェニーツィン氏(1918~2008年)。旧ソ連の反体制作家で、過酷な収容所生活を描いた『イワン・デニーソヴィチの一日』や『ガン病棟』でノーベル文学賞を受賞した。
母はウクライナ人である。ロシア人の父は出生前に事故死し、敬虔(けいけん)な正教徒の母に育てられた。
青年期にスターリン批判のかどで逮捕され8年間、収容所で暮らした。73年にパリで『収容所群島』を出版し、世界にセンセーションを巻き起こして74年にソ連から追放された。
82年9月の来日時は、ソ連諜報(ちょうほう)機関のKGBによる暗殺を恐れ行動は秘密にされたが、一度だけ講演し、「経済的繁栄だけで、国家がうまくいくものではない。日本は現在、外部からの侵略に対して無防備だ」と警鐘を鳴らした。
存命であればプーチン大統領に何と言うだろう。『ガン病棟』の主人公はこう語る。「私の内部は、全部が私じゃない。何か絶対に撲滅できないものが、非常に高貴なものが、内部に巣くっている! 世界精神のかけらみたいなものだ。きみはそう感じることはないかね?」(新潮文庫)。
プーチン氏が「世界精神のかけら」を感じないのであれば、もはやロシアとは無縁だ。なぜならロシアは「帝国の強大さではなく、ほかならぬ正教への信仰によって形作られてきた」(ソルジェニーツィン氏)からだ。プーチン氏よ、自らの心に問うてみよ。
(サムネイル画像:Wikipediaより)