国内啓発へあらゆる努力ー北方領土対策局長 篠原信之氏
北海道総務部北方領土対策本部北方領土対策局長
篠原信之氏に聞く
戦後76年余りの歳月を経た北方領土返還要求運動。ロシアの不法占拠が続く北方四島の返還に向け、政府はビザ(査証)なし交流など四島との交流等事業を進めてきたが、新型コロナウイルス感染症の拡大でここ2年間中断を余儀なくされている。
それでも北海道はコロナ禍収束後の交流等事業再開を見据え着々と準備を進めている。新年度の北方領土返還要求運動の方向性について、北海道総務部北方領土対策本部の篠原信之局長が語った。
(聞き手=札幌支局・湯朝 肇)
コロナ後睨み交流再開準備
新型コロナウイルス感染症の拡大で領土交渉もなかなか進まない状況です。昨年1年を振り返って、どのような印象をもっていますか。
一昨年から続いた新型コロナウイルス感染症の拡大によって、北方四島との交流等事業が2年続けて見送られ、また予定していた返還要求運動のイベントや大会を縮小あるいは無観客で行うなど変更を余儀なくされた1年でした。
その一方でロシアの動きをみると、昨年北方四島への企業誘致のため税金免税といった「特恵制度」の導入を提案、さらにロシアの政府要人の北方領土訪問などの動きは、元島民はもとより、われわれ道民・国民としては到底受け入れられることではなく、極めて遺憾なことと捉えています。
そうした中で、昨年は菅義偉前総理から岸田文雄総理に変わりましたね。
岸田総理は就任早々、プーチン大統領と電話で首脳会談を行い、そこで両首脳は2018年の安倍晋三元総理とプーチン大統領によるシンガポール合意を含め、これまでの両国間の諸合意を踏まえて交渉を継続していくことを確認しました。それらの内容は今国会においても岸田総理は明言されておりますから、われわれとしても粘り強い交渉を進めていただけるものと認識しています。
日露間の領土問題を解決して平和条約を締結するというのはわが国の方針です。岸田総理にはコロナ禍ではありますが、早い段階での対面による首脳会談を持ってほしいと願っています。
新型コロナが猛威を振るう中、北方領土返還要求運動への取り組みや啓発・普及活動はどのように展開してきたのでしょうか。
これまで毎年、北方四島への墓参、自由訪問、ビザなし交流の北方四島との交流等事業を進めてきましたが、コロナ禍の拡大で一昨年、昨年と2年続けて実施ができませんでした。また、啓発事業も縮小、代替といった手法をとらざるを得ませんでした。新型コロナウイルスの影響下、啓発事業を行うには何よりも感染症の拡大防止を念頭に置かざるを得ないので、これは仕方のないことと思います。
ただ、北方四島との交流等事業については感染症の影響で中断されているとはいっても、再開に向けて準備していなければなりません。そこで一昨年から道内の医療関係者のアドバイスを受けながら、北方四島交流専用船「えとぴりか」の感染症対策に伴うゾーニング(汚染区域と清潔区域の区分け)や隔離施設の設置などの改修工事の国への働き掛けに加え、當●(=瀬の頁の上を刀に)規嗣・札幌医科大学教授の監修の下「新型コロナウイルス感染症安全対策マニュアル」の策定を進めてきました。
内容としては、ビザなし交流や北方墓参など各実施団体が行う交流等事業について、「訪問団編成段階」から「事業終了後の対応」までそれぞれ15の場面ごとに感染症対策を行うべき項目と具体的な対策を記載しております。同マニュアルについては今年1月12日、鈴木直道知事から林芳正外務大臣と西銘恒三郎北方対策担当大臣に提案させていただきました。
その際、「えとぴりか」を根室港まで回航してきて、感染症対策マニュアルに沿った実地検証と試験航海を行うことができるよう国に要望しました。さらに、事業再開となれば四島側とも感染症対策のための協議の場を事前に設けてもらう必要もあります。四島交流等事業が可能な限り早期に再開できるよう、そのための準備を進めてきましたし、これからもしっかりと進めていきたいと考えています。
北方領土返還に向けた啓発活動としての取り組みはどうでしょうか。
先程申し上げたとおり、コロナ禍での活動については大勢の方々を集めてというのは限界があります。それでも四島返還のためにできることは何でもやっていこうという思いで取り組んでいます。
今年度から「北方領土動画コンテスト」をスタートさせました。北方領土問題や北方領土に隣接する地域への理解や関心を高めることを目的とした取り組みで、昨年10月19日から今年1月4日まで募集しました。予想以上に多くの応募があり、審査の結果はホームページに載せる予定です。これまで毎年、中学生を対象とした作文および主に若い方々を対象とした「北方領土の日」ポスターコンテストを行ってきましたが、この動画コンテストを加えて3本目の柱として定着させていきたいと考えています。
さらに北方領土返還要求運動へ若い人の参加を促すということで、現在の自筆による署名に加えて電子署名による署名も認めてもらえるよう国会への働き掛けを行っています。
国民の意志を直接表明する手段として、これまで北方領土の署名は自筆で行ってきました。集められた署名は毎年、国会に提出されてきました。また、その際には、総理大臣への要請も行ってきました。
政府では、請願法に基づく官公署に対する請願については、電子署名による署名簿の添付等は制度上可能であることが昨年12月21日の閣議で確認され、ホームページで周知されました。今後は国会でも認めていただけるよう働き掛けていきたいと思っています。元島民の一世の方々の平均年齢は86歳と高齢化しており、一日も早い領土問題の解決を望んでおります。そうした元島民をはじめ道民・国民の切実な声をしっかりと受け止め、国の領土交渉が一歩でも二歩でも先に進むことができるように、北海道としてもしっかりと後押しできるように取り組んでいきたいと考えています。