4島返還へ機運醸成を 軍備・経済支配強めるロシア


 北方領土問題への理解と関心を深めるために制定された「北方領土の日」は、今年で42回目を迎える。2月7日は、日本とロシアの国境が択捉島とウルップ島の間にあることを定めた「日露通好条約」(1855年)が調印された日であり、北方領土が日本の領土として国際的にも明確になった歴史的な日だ。

北方領土隣接地域振興対策根室管内市町連絡協議会の石垣雅敏根室市長(左から2人目)らの表敬を受ける岸田文雄首相(右)=令和3年12月1日、官邸(首相官邸ホームページより)

北方領土隣接地域振興対策根室管内市町連絡協議会の石垣雅敏根室市長(左から2人目)らの表敬を受ける岸田文雄首相(右)=令和3年12月1日、官邸(首相官邸ホームページより)

 戦前には約1万7000人が暮らした日本固有の領土であるにもかかわらず、第2次大戦の終結直前、当時まだ有効だった日ソ中立条約を破って侵攻したソ連に不法占拠され、その状態が今もなお続いている。

 ◇軍事拠点化を加速

 ロシアは一昨年12月、既に配備された地対艦ミサイル部隊や新型戦闘機に加えて、地対空ミサイルを国後島と択捉島に実戦配備。昨年は両島を中心に大規模な軍事演習や射撃訓練を立て続けに実施した。地対空ミサイルの発射訓練にとどまらず、無人機を使った偵察、戦車や自走砲による実弾演習も行われた。

 今年1月にも地対空ミサイルの発射訓練や1000人以上の軍人と約100部隊が参加する実弾射撃訓練を公開するなど、これ見よがしに北方領土の軍事拠点化を加速している。

 また2019年2月には、サハリン(樺太)と北方領土をつなぐ光ファイバー回線を開通させるなど、インフラ整備も進められている。この計画には中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)も参画しており、日本政府の抗議や遺憾表明は無視された。

 さらに昨年9月、プーチン大統領はクリール諸島(千島列島と北方領土)全体を対象に、企業の各種税金を免除する特区を創設する構想を発表した。11月には特区を設ける法改正案が下院議会に提出され、1月から審議が始まった。このようにロシアは日本側の抗議を無視して、軍事、経済両面での支配を強める動きを着々と進めている。

 ロシアはこれまでも、「経済協力の進展が領土問題解決の環境をつくる」(ラブロフ外相)として、日本からさまざまな経済協力を引き出してきた。共同経済活動がなし崩し的に進められ、領土問題が置き去りにされてきた経緯は無視できない。

 ◇首相が強い決意示せ

 昨年10月、岸田文雄首相は、就任後初めてプーチン氏と電話で会談し、北方領土問題を含む平和条約交渉について、「日露関係全体を互恵的に発展させたい。北方領土問題を次の時代に先送りせず、プーチン氏としっかり取り組みたい」と伝えた。これに対しプーチン氏は「2国間や国際的な課題に関して建設的に連携する用意がある。平和条約締結問題を含め対話を継続していく意向だ」と応じた。

 両首脳は、平和条約締結後の歯舞、色丹両島の引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言を基に平和条約締結交渉を加速させるとした2018年の首脳間合意を再確認。岸田首相は「これまでの両国間の諸合意を踏まえて、しっかりと平和条約交渉に取り組んでいくことを確認した」と述べた。

 国内では1月、北海道の鈴木直道知事が、外務省で林芳正外相と面会し、北方領土問題の早期解決を求める要望書を手渡した。新型コロナウイルス感染拡大の影響で2年間停止している北方四島へのビザなし訪問や墓参などの交流事業再開も要望した。

 北方領土が不法占拠されてから今年で76年となり、元島民も高齢化している。岸田氏には首相として迎える初めての北方領土の日に、今一度4島返還への強い決意を示してもらいたい。ウクライナ情勢でも明らかなようにプーチン大統領は相手が弱いと見るとどんどん強く出てくる。4島返還に向けて国内世論を結集し、国際社会、とりわけバイデン米政権への情報発信を強化しつつ、岸田首相を中心として粘り強い外交を展開して、4島返還と平和条約締結への機運を醸成していくべきだ。