英EU離脱と扇動家、沖縄独立派学者が注目

《 沖 縄 時 評 》

無責任な言動で民意左右

英EU離脱と扇動家、沖縄独立派学者が注目

沖縄で米軍属が逮捕された女性暴行殺害事件に抗議し、被害者を追悼する大規模集会で「琉球独立」と書かれた旗がひときわ目立った=6月19日、沖縄県那覇市の奥武山陸上競技場

 6月23日、英国でEUから離脱するか残留するかを問う国民投票が実施され、離脱派が勝利した。

 今回の国民投票は2015年のキャメロン首相の公約に基づくもので、今年2月、実施日が発表された。以来、10週間にわたり、残留派はキャメロン首相、離脱派はジョンソン前ロンドン市長を旗頭に運動展開した。

 EU離脱が多数を占めたことについて16年7月1日、英国のティム・ヒッチンズ駐日大使が日本記者クラブで緊急会見し、「国民投票は民主主義の最高の結果」とした上で、離脱を選択した国民の意思は尊重され、再投票はないと明言した。国民投票の結果「EU離脱」すなわち「BREXIT」(ブレグジット)の民意が示された形になったが、この結果に対して、早くも不満を持ち出す国民が続出した。

国民投票は民意か

 そして、英国民の後悔の意を示したとされる「BREGRET」(ブリグレット)という造語も飛び出す始末だ。「民主主義の最高」の手法で決めたはずの「EU離脱」は英国の民意でないことが判明したのだ。

 離脱が決まったことを受け残留を主導したキャメロン首相が辞職を表明したが、離脱を煽(あお)ったボリス・ジョンソン前ロンドン市長が次期首相候補を早々に辞退したことは世界に衝撃を与えた。英国のEUからの独立を意味する「離脱」の第一報を聞いた離脱派は「インディペンデンス・デー(独立記念日)」を叫んで諸手(もろて)を上げて喜ぶ姿が報じられていた。

 衝撃の意味は離脱後の英国首相にはボリス・ジョンソン氏が有力視されていたが、そのボリス・ジョンソン氏が「離脱」後の首相候補を辞退したからだ。衝撃はそれだけにとどまらなかった。

 7月4日、離脱派の英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ氏が、党首の座を辞任することを明らかにした。ファラージ氏は、今回の国民投票を離脱に導いたことで「自分の役目は終わった」とコメントした。離脱を扇動した責任者としては、無責任な話だ。

 時差の関係により、離脱による経済的打撃をいち早く伝えたのは東京市場であった。予想されていたとはいえ、離脱により経済の雲行きが怪しくなった状況を在京メディアは次のように世界に発信した。

 「東京株暴落、終値1286円安 1万5000円割れで今年最安値」(産経新聞6月24日)。「金融市場大混乱、アジア株も全面安…離脱多数で」(読売新聞6月24日)。

 明治政府設立以来、英国が生み出した議会政治の知恵は、日本のお手本でもあった。影の内閣やマニフェスト、一騎打ちの党首討論など、輸入した手法や制度は少なくない。

 わが国が民主主義のお手本と仰ぐ英国で、国の将来を決めるEU「離脱」の是非を問う「民主主義の最高の形態である国民投票」で決まったのだ。誰もが「離脱」は「民意」であり議会制民主主義の「神の声」として英国中で歓迎されるものと思われた。

2紙も扇動に加担

 英国のEU離脱を誰よりも注目しているグループがわが国にいた。翁長雄志沖縄県知事と知事を支援する沖縄2紙や「沖縄独立派」学者のことだ。

 昨年の9月、翁長県知事はスイス・ジュネーブの国連人権委員会で演説し「沖縄の自己決定権がないがしろにされている」「沖縄には民主主義が保障されていない」と訴えた。この自己決定権とは、沖縄県民が日本人とは違う少数民族であり、民族としての自己決定権が失われている、という前提に立った言葉で、将来は「沖縄独立」を視野に入れた文言だ。

 翁長知事は14年の県知事就任以来、安全保障政策で国と対決し、日米安保に基づく普天間飛行場の辺野古移設に反対している。一地域の首長が自分の権限を越えて国の安全保障政策に介入し、それを阻止しようとしているのだ。

 そして国との対立を「自己決定権がないがしろにされている」と、あたかも沖縄が独立国であるかのような発言をしている。

 昨年12月6日「沖縄の自己決定権」について、14年に独立を問う住民投票が行われた英国スコットランドから学ぼうというシンポジウムが、那覇市で開催された。沖縄独立主義者でスコットランドに詳しい島袋純琉球大教授らが、14年のスコットランド住民投票について講演をした。

 現地で取材した島袋教授ら独立派学者の「沖縄独立」に関する論文が、スコットランドの住民投票後、沖縄2紙の紙面を飾り、沖縄独立の可能性を訴えた。スコットランドの独立は失敗に終わったが、今回の英国のEU離脱は成功した。

 英国は今回、国民投票という民意によりEUからの独立に成功したのだ。

 翁長知事や沖縄の独立志向の高い学者らが英国の独立成功に呼応して、「沖縄独立の可能性」を論じる企画を掲載するかと予想された。だが実際は、沖縄2紙が全くの沈黙を守った。

 英国のEU離脱について事前の予想では残留派が多いと看做(みな)されていたが、結果として離脱が決まり、後悔する英国民の嘆き節を聞いて、民意のいかがわしさを察したのだろうか。

 国民の民意を問う参院選挙が10日に迫っている。

 今回、民主主義のお手本国英国が示したEU離脱は、民主主義の持つ問題点を我々の前に突きつける形となった。

 究極の民主主義の手法といわれた国民投票が、ボリス・ジョンソン氏のような無責任な扇動家の意見に左右されやすいという事実だ。米大統領候補ではドナルド・トランプ氏のような過激な主張がアメリカ人に受け入れられ、共和党候補に事実上決定した。

 参院選を目前に控え、共同・時事ら各世論調査によると、沖縄選挙区で伊波洋一候補が優勢という見立てだ。果たして実際はどうか。

 「沖縄2紙は偏向報道が激しい」という批判に対し、彼らはこう嘯(うそぶ)く。「偏向ではない。県民の民意を反映しているだけだ」。

 その一方、彼らはこのような本音を吐く。「沖縄の民意は沖縄2紙が作る」。

 沖縄2紙は「県民の70%は新基地建設(辺野古移設)に反対」と「沖縄の民意」を連日報道する。

最悪の民主主義に

 沖縄2紙がつくった「新基地建設(辺野古移設)反対は民意」という神話のメッキが剥(は)げる時期に来ている。

 14年の県知事選のとき、最大の争点として「基地か経済か」と二者択一を迫る沖縄2紙に対し、仲井真弘多候補は基地問題も重要だが「経済問題も重要」として、経済政策を述べた。だが、記者の質問は米軍基地に集中した。

 結局「オール沖縄」の支援を得て「辺野古反対」を公約にした翁長知事が圧勝した。

 沖縄の選挙の争点は沖縄2紙が決める。

 今回の参院選でも国と対決中の翁長知事が支援する伊波候補は、辺野古移設に関しては歯切れがいい。

 新聞が民意としてお墨付きを与えている「新基地反対」のワンフレーズを叫んでおれば済むからだ。

 その点、対立候補の島尻安伊子候補は、歯切れが悪い。

 政府方針の「辺野古移設が唯一の解決策」と、ワンフレーズを明言すればよさそうだが、それは沖縄2紙を全面的に敵に回すことを意味する。

 民主主義の根幹を成す選挙はメディアの公正な報道を前提とする。

 沖縄での主要選挙で沖縄2紙は、果たして公正な報道に徹したといえるか。

 扇動家の大声が英国のEU離脱に勝利を与えた。沖縄2紙は扇動家の役割を果たしているのではないか。

 第2次大戦の発端といわれる1938年4月10日、ヒトラー率いるナチスドイツは、オーストリアがドイツと合併するかどうかの国民投票を行ったが、結果は97%が合併に賛成したという。ナチスドイツと戦った元英国首相のウィンストン・チャーチルは、民主主義について次のように述べている。

 「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」

(コラムニスト・江崎 孝)