欧州統合の高邁な理想に亀裂
主権の尊重選んだ英国
国内に分離・独立の動きも
【ワシントン】傲慢(ごうまん)で尊大、相も変わらず合理性を欠き、無責任なブリュッセルの欧州連合(EU)官僚らを見れば、英国がEUを離脱したのもある程度納得がいく。なるべくしてなったということだ。
それでも、うぬぼれや独善は慎むべきだ。統合は容易でない。1951年に欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)として始まった統合の動きのもととなったのは、第2次世界大戦の灰の中から生まれた統一欧州の概念だ。戦後70年がたち、英国は離脱を望み、EUは存続の危機に直面している。
米大陸での連邦を築くための壮大な実験は、70年間でどうなっていただろうか。1787年憲法の下で「より完全な連邦」を築くという約束が交わされた。結果はサムター要塞(ようさい)だった。
連邦の理想は崩壊し、内戦に突入、60万人が死亡した。米国には、共通の言語と共通の伝統、共通の敵(英国)との壮大な革命戦争の共通の記憶という強みがあるが、欧州にはそれがない。欧州は、数多くの全く異なる人々、民族、言語、文化を統合しようとしている。二つの歴史上かつてないほど破壊的な戦争で互いに争ったという強烈な記憶を抱いたままだ。
EUは素晴らしい理想だが、実現の方法がまずかった。創設の目的は明確で、高潔だ。第2次大戦で戦った兵士ら、とりわけ独仏の兵士らを和解させ、二度と同じようなことを起こさないような環境をつくり出した。そればかりか、偏狭なナショナリズムを完全に超越する大陸超国家という理想を掲げた。
この理想は6月23日、ブレグジット(英EU離脱)で吹き飛んでしまった。だが、この壮大な計画で平和が実現した。限定的ながら、並外れた成果であり、その重要性を軽視してはいけない。これによってローマ帝国以来最も長期にわたる地域内の平和が欧州に訪れた。(当然ながらこれには、北大西洋条約機構=NATO=による外部からの脅威に対する米国の傘も考慮すべきだ)
欧州各国の間で武力衝突が起きていないことは素晴らしいが、それ自体、思い描くこともできないほど大変なことだ(代わりにサッカーのフーリガンらが国家間紛争を起こしている)。この千年、この大陸では、戦争が当たり前のように起きていたのだから。
このEUの努力は評価されるべきだ。旗、歌、役に立たない議会など国家をまねた道具仕立てはこっけいだが、この超国家的な理想を支持し、推進して、2度の大戦を引き起こした過度のナショナリズムを抑え込むことに成功した。
しかし、それも完全ではない。ナショナリズムの残滓(ざんし)を抑制し、否定し、民主的な表現を支持するには至っていない。これまでも国民投票や議会による数多くの反対があったが、EUはそれらを常に無視したり、回避したりして、中央集権化、規制強化を強く推進し、それによって選挙で選出されていない人物にも権限が与えられた。
このような大衆の感情を無視するような威圧的な態度は、長く続くものではない。そして6月23日が来た。
確かに国民感情というものは細かく細分化されている。英国の国民投票でその差異が最も顕著に見られたのは世代間だ。新しい欧州で育った若い世代は、今の国際主義を自然に受け入れ、国境を開き、貿易障壁を取り払い、人々の移動を自由にするようになった。この世代の多く、4人に3人が残留に投票した。離脱支持は主に高い年齢層で、英国の自治と主権を欧州に侵されるのが我慢ならないという世代だ。
これは理解できる。英国は、自由な思想を持ち、議会発祥の地でもあるが、ブリュッセルの官僚らに、ザクロの実の適正サイズから、テロリストの人権まであらゆることを命令されている。
英国人の気に障ったものとしてよく言われるのは、EUの他の国民を自動的に受け入れることを認めるよう求めた移民令だ。しかし、離脱派を優位に押しやったのは、政策ではなく主権だ。英国を統治しているのは誰だろう。驚くべきことに、英国人の生活を管理する法律、規制のほぼ半分は、英議会ではなく欧州議会から来ている。
ブレグジットは、国家主権の表明であり、一撃でそれを取り戻す試みだった。
このような欲求は尊重すべきだ。しかし、それには犠牲も伴う。欧州統合ばかりか、英国までも分裂の危機に直面する可能性がある。すでに離脱を問う国民投票を実施する動きがある。スコットランドではすでに独立のための国民投票の実施が検討されている。北アイルランドは国民投票で残留を支持し、アイルランドとの連帯を求める可能性がある。
理想は素晴らしいが、やり方がまずかった。新たな主権国家英国を追求すれば、英国には、小さなイングランドしか残らない可能性がある。
(7月1日)











