英国のEU離脱決定に改めて統合の原点と課題を再確認した各社説

◆世界秩序変動を懸念

 それにしても、なぜ、こんなことになったのか――。

 25日付日経社説の一部だが、英国の欧州連合(EU)残留か離脱かを問う国民投票の結果に対して、少なからぬ人々が抱いた感想であろう。筆者もその一人である。

 しかし、その結果は同紙が指摘するように、「世界の経済や秩序に与える影響は、はかりしれないほど大き」く、「深い憂慮の念を抱かざるをえない」ものである。

 事実、その後の各国の株式市場は激震に見舞われ、依然として動揺が続く。当面は、「機動的な流動性の供給など、各国の金融当局は市場や金融システムの動揺を抑える努力を尽くさなくてはならない」(同社説)のは当然である。

 今回の結果に対し、「EUの力を削(そ)ぎ、その理念さえもぐらつかせるきっかけとなってはならない」と指摘したのは産経25日付「主張」である。

 欧州の弱体化は、ロシアや中国など軍事力を誇示して国際ルールを無視する勢力と、法の支配という普遍的価値観を共有する日米欧とのバランスも崩しかねない――。

 いかにも産経らしい指摘である。同紙は「離脱は残念な結果だが、今はそれに伴うさまざまな事象が多方面に及ぼす負の影響を、いかに最小限にとどめるかである」と強調する。同感である。

 読売社説も、米国との絆が強い英国の離脱で主要国間のバランスが崩れる、と指摘。ロシアのプーチン大統領がEUの足並みの乱れを奇貨としてウクライナ問題を巡る対露制裁の解除を画策しており、「弱体化したEUは圧力を維持できるのか」と懸念する。朝日社説も、「冷戦が終わって以降の世界秩序の中で、最大の地殻変動となりかねない出来事だ」と捉えた。

 このような大事件だけに、各紙とも通常2本立ての社説枠に1本だけの大社説で論評し、日経は上下2回の連載で26日付も大社説を載せた(ちなみに見出しは25日付「世界経済と秩序の混乱拡大を防げ」、26日付「大欧州の歩みをもう後退させるな」である)。

◆反移民感情嘆く日経

 さて、やはり気になるのが冒頭の「なぜ、こんなことに…」である。25日付毎日も「まず各国の指導者は、なぜ英国でEU離脱派がここまで支持を集めたのか、冷静に点検するところから始めなければならない」と記す。

 英国の反EU論調について、毎日は覇権国だった過去への郷愁や誇り、島国独特の国民性に加えて、「世界的に広がりつつある自国至上主義や排外主義と重なる面も少なくない」とする。そして、その底流にあるのが、「エリート層への不信感や官僚機構の権限拡大に対する嫌悪感、移民に職や社会保障上の恩恵を奪われるといった不安」で、さらに「自分はグローバル化の恩恵を受けないばかりか置き去りにされているといった不満もあろう」と。朝日も「冷戦後加速したグローバル化に対する抵抗の意思表示」とした。

 確かに、そうした面もあろう。「高邁(こうまい)な理念を掲げたEUへの英国民の不満は、生活に根差した切実なものだった」(東京25日付)、「国民投票の結果が示したのは、反移民や反EUの感情が経済合理性をはるかに超えて強い、という現実だ」(日経25日付)と言えなくもない。

 ただ、EU離脱決定後に再投票を求める声が数多く出ている現状や、離脱に投票したことを後悔するといった当地の人の声を聞くと、読売が強調するように「排外主義が潜むポピュリズムの台頭に懸念を強めざるを得ない」。日経も、大陸欧州の各地でも排外的なポピュリズムが広がり、反移民や反EUを掲げる政治勢力が支持を伸ばしている、と現状を懸念する。

◆国民投票の是非問え

 では、どうすべきか。各紙が指摘するように、2度の世界大戦の舞台となった欧州を再び戦場にしないというのがEU統合の原点。「欧州統合は、超国家的共同体とその理想のために、国家主権も部分的に制限するという、近代国家の枠を超える人類史的な試み」(本紙)でもある。

 毎日は「EUは今後、自らが目指す統合の将来像と緊密化の速度について再考を求められそうだ」とし、産経も「統合深化の過程については、EU自体が改めて検証すべき課題であろう」と指摘する。統合の原点と課題を再確認した各紙社説であったが、国論を二分し、「英国民を分断した」(朝日など)国民投票の在り方を問うものはなかった。

(床井明男)