都の「性教育の手引」改訂版、指導要領超える授業例を掲載

 児童生徒の発達段階に応じた性教育の実践のため、東京都教育委員会(都教委)が学校での指導事例などをまとめた「性教育の手引」(以下、手引)の改訂版が3月中に公表される。改訂版にはネット上のトラブルなど現代的な問題への対応のほか、文部科学省の「学習指導要領」(指導要領)を超えた指導を行う際の対応についても掲載する。指導要領を超えた授業では、偏った内容になることを懸念する声もある。(社会部・石井孝秀)

避妊など「節制」の観点なし
偏った授業への懸念も

 都教委は指導要領改訂を機会として、昨年度から「『性教育の手引』作成委員会」を設置。小中高校や特別支援学校の校長、副校長、PTA会長など教育関係者を委員に迎え、今年度に委員会を4回開いた。

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中学校で行われた産婦人科医によるモデル授業=1月30日午後、東京都八王子市の都立南多摩中等教育学校(石井孝秀撮影)

 新たな手引では性をめぐる現代的な四つの問題として、①情報化の進展②妊娠・出産③性感染症④性同一性障害に関する課題――を取り上げる。石川哲也委員長は「(改訂版は)感触としていい枠組みになった。性教育の手引は最近各県で出ていなかったので、東京の手引が出るのを(地方が)待っている」と語った。

 問題は指導要領を超えた性教育への対応だ。指導要領では避妊や人工妊娠中絶は高校で指導する内容で、性交は小中高校で取り扱わないことになっている。

 都教委は性教育指導の基本方針として、①発達段階を踏まえる②学校全体で共通理解を図る③保護者の理解を得る――ことを強調しているが、この3点を押さえた上で指導要領外の授業を行うことは否定していない。同委員会は学校側がそういった指導を行う場合、保護者に送る「通知文」の事例を新しく改訂版に掲載すると発表した。

 さらに指導要領を超えた授業を扱う一例として、産婦人科医など外部の専門家を招いた授業を紹介する。都教委では今年度5回にわたって、都医師会の協力のもと医師によるモデル授業を都内各地の中学校で行った。

 このモデル授業では、事前に保護者会を開き、授業の指導案を基に保護者へ授業内容を説明。保護者からの了解を得た生徒には指導要領を超えた内容を含む授業を行い、不安を申し出た保護者の生徒には指導要領に即した授業を別に準備して実施する。希望すれば、保護者も授業に参加できる。

 1月末に都立南多摩中等教育学校(東京都八王子市)で行われたモデル授業は報道陣にも公開された。担当した産婦人科医の講師は「避妊」「人工妊娠中絶」「性感染症」などのほか、「包茎」「自慰」「セクスティング(性的な画像や文章を携帯電話などで送ること)」にも授業で踏み込んだ。同校によると「性に関する悩みを人に相談してもいい」と教えられ、安心感を抱いた生徒が多かったという。モデル授業の反応を受けて、都教委は外部講師活用の啓発・拡大に意欲的だ。

 しかし昨年8月、都教委が都内全公立中学校(624校)に行った性教育の実施状況調査結果によると、指導要領を超える授業を実施した学校55校のうち約3割が保護者への事前通知をしておらず、また外部講師による授業を行った学校144校のうち5校は講師との間で打ち合わせがなかった。モデル授業の啓発に伴い、保護者へ通知のない授業の増加や実際の授業が事前説明と異なるなどのトラブルが起きないよう、注意することが課題として浮上している。

 教育問題に詳しい麗澤大学大学院の高橋史朗特任教授はモデル授業を「性感染症や妊娠、避妊などについて率直に語り掛けている点や全ての保護者に対して授業の内容を説明している点は評価できる」とする。その一方で、講師が授業中に「セックスはいけないと言うのは押し付けの教育」「性感染症を防ぐのはコンドームしかない」と断定的な主張をした点を問題視。「イギリスのケンブリッジ動物生理学遺伝子学研究所のデニス・アレクサンダー氏は『コンドームなどを使った予防法が節制と同じように安全であるかのように見せ掛けるのは、科学的に見て正しいとは言えない』と指摘している。中学生という発達段階では科学的知識に加え『節制が第一』と教えるなどの配慮が必要だ」と懸念を示した。