高校に国際言語文化コースを

エルドリッヂ研究所所長、政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ

ロバート・D・エルドリッヂ

1年間で9言語を学ぶ
英語学習の質は確実に向上

 日本人は、最低でも6年間英語を勉強しているにもかかわらず、英会話能力が低い。これは国内で批判されているだけでなく、国際社会からの嘲笑(ちょうしょう)の対象となっている。過去28年以上の日本人と交流した経験から、完璧に流暢(りゅうちょう)に話す人(筆者よりうまい人もいる)から、まったく話せず聞き取れない人、さらには自覚しているよりは理解できるが会話ができない人まで、あらゆるタイプがある。

 断っておくが、美しい日本語を話すのをやめて英語を受け入れろと言っているのではない。日本人が外国人とコミュニケーションするには英語が不可欠なのだ。今後もより多くの外国人が日本を訪れる。彼らが日本語を学び、日本の本当のことを知るには、日本人が外国語でうまく会話できるようになる必要がある。英語を話せることは最低要件だ。

 英語は実用的な言語だ。世界中で話されており、世界共通語とも言われている。ただ、英語が全てではない。世界中には実に6912もの言語があるとされる。全てを話すのは不可能だが、幾つかの言語に通じ、複数の言語を話すことは可能だ。外国語を学ぶことには他のメリットもある。複数の言語を比較する中で、自身が話す言葉を含めた文法やその他の側面の理解が深まり、語彙(ごい)が増える。そして、何よりも言語以外の観点から見れば、他の文化や人々について学べることに意味がある。

 ところが、日本の小中高および大学における言語教育システムは概して、良い英語を話すという観点で失敗している。英語を学んで3、6、10年経っても、本格的な会話ができない。これは大変な失敗だ。これには多くの理由がある。これについては嫌になるほど数多くの研究がなされてきたが、ほとんどが改善されないままだ。さらに、代案も提示されていない。

 こうした理由から、「国際言語文化コース」と呼ばれる新しい言語教育計画を提案したい。コースでは、9言語を対象に、1年間で9人の講師が受け持つ。英語以外の9言語は、その言語が教えられる現地と関連のある地域から選ぶようにする。北海道であればロシア語、福岡県なら韓国語を含めたらいいだろう。ほかの選定要因として、県や市町村との姉妹提携がある。もしも、トルコの都市と姉妹提携していれば、トルコ語を取り入れる。あるいは、多くの外国人グループがいる地域なら、そこの言葉を学べるようにする。

 言語と文化は約1カ月の間、ネイティブ・スピーカーに教えてもらい、典型的なフレーズ、単語、文章構造や文法などを学べるようにする。言語学習の後は、筆記と会話のテストをする。そうして、次の言語に移行し、同じようにネイティブ・スピーカーから学ぶ。テストの結果は学期末に平均値を出すようにする。そうすることで、ある言語では成績が悪くても、ほかの言語で良い成績を残せば、生徒はそれほど苦しまずに済む。

 こうしたタイプのコースを学ぶことで、生徒は各言語の違いや類似性を学ぶ。学際的かつ比較文化的、包括的に言語にアプローチすることで、生徒はどのように言語が発達し、出来上がっていったかを知ることができるであろう。さらには、日本語はどの国の言葉と似、あるいは違うのかを知り、日本語をより良く理解し、語彙を増やし、外国文化に対する理解を深めることができる。

 9人の教師は都道府県が採用すればよい。各都道府県で9人の教師がローテーションで教えることができる。各学校はコースを監督する言語教師を配置する。監督者はコースの目的を紹介し、今後学ぶ言語の構造など包括的な概要を教え、生徒の成績を管理し、文部科学省やその他の公的機関が認定する試験を実施する。

このコースは高校1年で実施すべきだ。義務教育を終えた後で、コースの趣旨を理解する年齢に達しているが、新しい素材を吸収するには十分若い。さらに、少なくとも3年間、英語を学んでおり、日本語以外に少なくとも二つの言語を比較することができる。

 コース修了後、生徒は何か一つの言語を選んで、高校で継続して学ぶか、それがなければ、放送大学の講座で学ぶ。講座は大学の授業レベルなので、生徒は大学の単位として修得できる。こうすることで高校は、生徒の未来のための予算と時間を節約できる。生徒は、望めば英語を学び続けることができる。当面、9の他言語を学ぶ機会を得ることで、これまで以上に英語に戻り、学ぼうとする意欲が芽生えると確信している。英語学習の質は確実に向上するであろう。

 筆者はドバイと欧州を先月訪問する中で、この種の国際言語文化コースの必要性を実感した。この地域を訪れる外国人が非常に多いことに圧倒されたが、もっと驚いたことは、これらの国民は多言語を話すことができるということだ。一方で、日本人は日本語しか話せない。日本が21世紀の時代に取り残されないためには、言語文化教育に真剣に取り組むよう政府にお願いしたい。形だけではいけない。若者はとても貴重な国家の財産であり、生産的でグローバル社会に貢献するのに必要な教育を与えなければならない。