米国防権限法が成立、超党派で対中警戒感拡大
トランプ米大統領は13日、国防予算の大枠を定める国防権限法に署名し、成立させた。同法では、政府機関に中国通信機器大手の製品の使用を禁ずるなど、中国に対する厳しい措置が盛り込まれた。背景には、中国に対する警戒感が超党派で広がっていることがある。
(ワシントン・山崎洋介)
技術獲得や諜報活動に対抗
今回成立した国防権限法では、「米軍再建」を目指すトランプ政権の意向に沿う形で総額7160億ドル(約80兆円)の国防予算を計上し、この9年間で最大規模となった。その中で注目すべきは、中国による米国企業の最先端技術の獲得やスパイ活動などに対抗するための措置が目立つことだ。
トランプ政権は、昨年12月に発表した国家安全保障戦略で、ロシアとともに中国を国際秩序の現状変更を目指す「修正主義勢力」と規定。今年1月に国防総省が発表した国家防衛戦略では、中国について「近いうちにインド太平洋地域で覇権を築くことを目指している」と警鐘を鳴らしている。
こうした中、この法律は今月1日に上院で87対10の賛成多数で可決されるなど、超党派の支持を集めた。現在、トランプ政権が中国の貿易不均衡や知的財産の侵害をめぐり貿易戦争を仕掛ける中、議会も中国に対して厳しい姿勢を示した形だ。
米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の「アジア海洋透明性イニシアチブ」の責任者グレゴリー・ポーリング氏は、政治専門紙「ザ・ヒル」で、「中国との競争が、これから数年で米国が直面する最大の挑戦の一つだとする点で、多くの議員がホワイトハウスや国防総省と認識を共有していることが分かる」と指摘した。
今回の国防権限法では、中国が企業買収を通じ、軍事転用可能なハイテク技術などを入手し、米国の安全保障が脅かされる事態を懸念。対米投資を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の権限強化や米技術の輸出規制見直しを明記した。また、スパイ活動の恐れがあることを理由に米政府機関やその取引先が中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)や華為技術(ファーウェイ)の技術を利用することを禁じた。
全米の100以上の大学内に設置されている中国政府系の教育機関「孔子学院」に対しては、国防総省からの補助金を禁止した。同学院には大学内で学問の自由の抑圧やスパイ活動を行っている疑いがあり、一部議員らの間で警戒感が高まっていた。
同法ではさらに、中国が南シナ海で人工島の軍事要塞化を止めない限り、環太平洋合同演習(リムパック)への参加を禁じるほか、南シナ海で中国による新たな活動があった場合に国防総省が直ちに公表することを求めた。また、台湾の国防力を増強させるために支援すべきだとした。
ポーリング氏は、こうした対応について「南シナ海で威圧的な行動をとる中国に対抗するため、トランプ政権により効果的な戦略を描くことを促すもの」だと評価した。
一方、上院では6月、ZTEに対する米国製部品の販売を禁止する制裁を再発動させることを盛り込んだ国防権限法案を可決したが、その後、下院との両院協議会で同条項は削除された。
これに抗議し反対票を投じた共和党のマルコ・ルビオ上院議員は、「我々は中国の脅威に対して目を覚ますべきだ。残された時間はなくなりつつある」と警告。ZTEが米国の安全保障を脅かすとして、より厳しい措置を求めた。