『新しい公民教科書』検定合格に寄せて

『新しい公民教科書』代表執筆者 小山 常実

検定に名を借りた検閲
国民の「政治に従う立場」削除

小山 常実

『新しい公民教科書』代表執筆者 小山 常実

 本年3月24日、自虐史観打破の運動の先頭に立ってきた自由社の『新しい歴史教科書』は、不正検定を受けて正式に検定不合格となった。同日、同じく自由社の『新しい公民教科書』は、検閲とも言える過酷な検定を乗り越えて、検定合格した。筆者は、この教科書の代表執筆者として検定過程に立ち会ったが、特に二つのことを感じた。

同じ箇所何度も修正要求

 第一に、今回の公民教科書の検定は検閲と呼んでもよいものであった。まず、現代日本の政治体制を立憲君主制と捉える記述が、前回に続いて、検定を通じて削除された。立憲君主制論は公権解釈である。公権解釈をそのまま記すことさえ許さない検定とは、特定の思想勢力による検閲ではないかと思う。

 だが、もっとひどい検閲が行われた。単元10「国家と私たち国民」は、国家と国民個々人の関係を整理し、国家との関係における国民の立場を、政治に参加する立場、政治に従う立場、政治から利益を受ける立場、政治から自由な自主独立の立場という四つに整理して説明するものだった。この単元の文章は、自由社側というよりも、むしろ9年前の検定時に教科書調査官が主導して作った記述だったから、意見が付くとは思いもよらなかった。

 ところが、昨年11月27日、調査官から、内容的に問題はないが日本語的におかしいので整理してほしいと言われた。そこで3回も修正案を作成したが、今年1月24日には突然「政治に従う立場」を削除せよと指示された。これにはびっくりした。そもそも国民は国家の法律などに従う義務があり、国家との関係で「政治に従う立場」に立つ。このことは、公民教育として不可欠な指摘である。にもかかわらず、削除を命じられたのである。この立場を否定するならば、国家の治安や秩序は壊れていき、国家は内部から崩壊していく。国家解体を目指す特定の思想勢力による検閲が行われたと言えよう。

 第二に、文科省は『新しい公民教科書』も落としにきていた。我々は、検定意見に対応するため、おおよそ5回から7回修正案を作った。昨年11月27日に要求された通りに修正しても、また別の修正要求が出され、同じ箇所について何度も修正させられた。しかも、最終盤になって、今まで全く言っていなかったことを要求されることも多かった。何とか耐え続け、意見が付いた箇所を全面削除していくことで(28件)、ようやく検定合格したのである。

 では、何とか検定合格した『新しい公民教科書』はどういうものであろうか。これは、公民教科書史上、唯一、国家論を展開した教科書である。『新しい公民教科書』は、国家の役割を、公民教科書史上初めて、①防衛②社会資本の整備③法秩序、社会秩序の維持④国民一人ひとりの権利保障―という4点に整理した。そして、愛国心、愛郷心の大切さを書き、公共の精神を説くとともに、自衛戦力肯定説を初めて紹介した。

 これに対して、他社はどうか。ほとんどの公民教科書は、国家の役割は何か、という公民教育として不可欠の問題を立ててこなかった。特に第一の役割である防衛を書いたことはない。また、他社は愛国心、愛郷心、公共の精神を説かない。なぜ、他社はそうするのか。もちろん、防衛が国家の役割だということになれば、「日本国憲法」9条はおかしいのではないかという疑問がすぐに出てくることになるからだ。また、愛国心や公共の精神を説かないのは、強固な安全保障体制を構築できないようにするため、日本社会をバラバラの個々人に解体しておきたいからである。

国家再建のため応援を

 こう見てくれば、解体の危機に瀕している日本国家の再建を図るためには、『新しい公民教科書』の思想を広めることが重要であると言えよう。『新しい公民教科書』に対する応援をぜひともお願いしたい。

(『市販本 検定合格 新しい公民教科書』〈自由社、2020年5月下旬発売〉参照)

(こやま・つねみ)