ゴルファー比率と経済 米人種間格差が縮まらない
先月、ゴルフの祭典、マスターズ・トーナメントで14年ぶり5度目の優勝をしたタイガー・ウッズ選手は今月、トランプ大統領から民間人への最高の勲章を授与された。米フォーブス誌の「’18年の米国で最も裕福なセレブ」番付で、資産総額8億㌦で9位に入っている。不倫、事故、けが、薬物で数年間低迷したヒーローが完全復活した。
ネット検索で、90年に14歳のウッズ少年が人種差別体験を語っているビデオを見つけた。「ゴルフクラブで皆がじろじろ見る。『何しに来た。お前など来る所じゃないぞ』って。テキサスやフロリダでは毎度さ。奴隷制度があふれた土地だったからかな」
13歳までに世界ジュニア選手権などを勝ち続けた神童すら、アフリカ系米人(黒人)として厳しい人種偏見に耐えてきたのだ。当時黒人ゴルファーは本当に稀少(きしょう)だった。
私的な話で恐縮だが、その90年ごろワシントン駐在記者だった私は、車を盗まれた。ゴルフバッグとテニス道具が積んであった。(一言釈明→ゴルフとテニスと言っても、本業が暇だったのではない。冷戦終結が進行中で、湾岸戦争などもあり、駐米特派員は超多忙だった)
盗難を警察に届けて3週間後、車が見つかった。黒人居住地域の奥で、衝突した痕跡を沢山残して放置されていた。テニス道具は消えていたが、驚いたことにゴルフバッグは残っていた。係官は「犯人は黒人だな。テニス道具は自分で使うか売るかできても、ゴルフバッグは全く無用だったのだろう」と言った。車とバッグが戻ってきて嬉(うれ)しい一方、ゴルフなど別世界という黒人の貧しさが哀(かな)しく胸にしみた。
最近はどうか。メジャー選手権で15回、重要なPGA(プロゴルフ協会)ツアーで81回も優勝したウッズの影響で、黒人ゴルファーはかなり増えているだろうと思いながら、チェックした。
ところが、まだまだ少ない。13年の調査で全米ゴルフ人口2570万人のうち、白人79%、ヒスパニック12%。黒人は5%だけ(総人口中の黒人比率は約13%)だ。「アフリカ系米人選手の割合はNBA(米バスケットボール協会)は75%、NFL(米フットボール連盟)は70%、MLB(大リーグ野球)は9%だが、今回のPGAツアー参加は0・83%(1人)だけ。どう思う?」。ウッズ欠場の間、PGAで孤軍奮闘した黒人選手、ハロルド・バーナーは、17年にこう聞かれ、答えた。「小遣い月30㌦の青少年が1日30㌦かかるゴルフなどやるものか」
黒人系大学のゴルフ選手権大会もあるが、各校は黒人選手集めに苦労し、4分の3が白人選手のチームも珍しくないとか。
人種偏見もまだ残る。ウッズは一昨年出版された自伝で、公民権運動のキング牧師の演説の様にこう書いている。「私の最大の希望は、いつか色を気にせずお互いただ人間同士として見る日が来ることだった。まだ来ていない」
そして人種間の経済格差だ。縮小していない、増大しているといった報告が、最近も幾つか出ている。
米経済政策研究所の勤労者賃金報告では、賃金格差は00年の平均21・8%から、18年には27・5%へ拡大した。
米アトランティック誌のサイトによれば、白人世帯対黒人世帯の資産格差は、公民権法成立直前の1962年以来ほぼ変わらず、平均で6・5対1。これが10対9になるには、試算では2221年までかかるとか。
人種偏見と経済格差の頑固さ。
トランプ大統領の対中貿易対決、今回の訪日でも行われた対日貿易協議などの結果は、黒人世帯にもどれだけのプラスをもたらすだろうか。
(元嘉悦大学教授)






