トランプさん忘れないで、北の生物・化学兵器の脅威も
来週ハノイで開かれる第2回米朝首脳会談の結果は、日本にも吉と出るか。いや懸念の方が倍も大きい。
会談成功を誇示したいトランプ米大統領の前のめりが気になる。「北朝鮮に核放棄の徴候はない」と、米情報機関や軍の責任者、国連専門家パネルなどが口をそろえても、それに反発する。金家3代の巧みな目くらましDNAにやられ、「この道はいつも来た道」になりかねない。
日本にとり心配なシナリオ。①「米国の安全第一」で、金正恩・朝鮮労働党委員長から大陸間弾道ミサイル(ICBM)とショーウインドー的核・ミサイル施設の廃棄が約束されれば、対北制裁を一部緩和する②緩和を熱望してきた文在寅・韓国大統領が対北経済協力へ突っ走る③金氏が訪韓、南北連邦実現への協力と反日共闘のスクラムを組んで万歳――そんなの御免蒙(こうむ)る。
北朝鮮の完全非核化はどうなる。それに加え、さらなる問題もある。生物・化学兵器を含めた北の大量破壊兵器全体の脅威の除去だ。
生物・化学兵器は前回会談でも話されなかったようだ。実際、北がどれほどそれらを保有しているかは把握し難い。薬品も細菌も軍民両用で、実験や関係施設の探知はとても困難だ。情報の大きな部分は、脱北した兵士や関係者の証言に頼っている。
でも、韓国国防省は2000年代から白書に「北は推定2500~5000㌧の化学兵器を保有」と記し続けてきた。生物兵器についても様々な病原体を培養し、製造能力を有していると推定してきた。国会証言などで、①病原体は13種。特に炭疽(たんそ)病や天然痘兵器がテロや戦争で使われる可能性がある②平壌の中央生物研究所など3カ所以上の生産施設がありそうだ、と述べてきた。
先月公表された、文政権初の国防白書は北敵視をやめたが、北が攻撃力増強のため、核、弾道ミサイル、生物・化学兵器の開発を続けていると認めている。
北の生物兵器に関しては一昨年、米ハーバード大学ベルファーセンターが詳細な報告をまとめ、「生物兵器への備えは喫緊の課題」と論述した。
昨年末、米ミドルベリー国際問題研究所の報告書は、北朝鮮が外国の研究者の協力を得た結果、この分野の技術・能力を急増させていると分析した。ニューヨーク・タイムズなど米欧の一部メディアも先月、特に生物兵器の隠れた脅威に注目する記事を載せ、「北が使用する可能性は核よりずっと大きく致死性も強いのに、その脅威が軽視されている」という専門家らの懸念を伝えた。
先週13日は、マレーシアの空港でVX化学兵器により、金正恩氏の異母兄、金正男氏が殺された事件から丸2年だった。使い捨て実行犯にされたベトナム、インドネシアの女性2人の裁判は継続中だ。北朝鮮はもちろん知らんぷりだが、憤ったベトナム政府に対し昨年末こっそり謝罪したと報じられた。謝罪があったから、ベトナムは米朝首脳会談の開催も引き受けたのだろう。
だが親北一辺倒の文政権も、韓国国民の多くも金正男事件など忘れ、生物・化学兵器の脅威をあまり感じていないようだ。
日本のメディアでも「事件から2年」の扱いは小さかった。しかし、荒木和博・特定失踪者問題調査会代表らは、日本に続々漂着する北の木造船で、工作員が潜入している可能性を指摘する。とすれば、私たちも生物・化学兵器を一層警戒すべきだ。
とにかくトランプ氏には、安易に制裁緩和などしないでほしい。緩和すれば生物・化学兵器も抑制し難くなる。北の大量破壊兵器全体を視野に入れ直し、頑張ってもらいたい。
(元嘉悦大学教授)






