極貧人口増加、アフリカで米国が中国に挑む
飢えてガリガリのナイジェリアの子供たちの写真。一昨年のGDP(国内総生産)が約3760億㌦でアフリカ1を誇る経済・産油大国の子供とは思えない。
国際貧困モニター研究機関「世界貧困時計」によれば、ナイジェリアは昨年、極貧人口(1日1・90㌦以下で生活)がインドを抜き世界最多になった。12月末には約9090万人(総人口は約2億人)で、世界総極貧人口の15%。毎分4・5人の割合で増加中だ。子供の23%が極貧、70%が一般的貧困という別の調査結果もある。
世界で極貧人口は漸減しているが、アフリカ全体では約4億2232万人で毎分21人増えている。アフリカは「潜在力を秘めたフロンティア」(本紙元日特集)だ。でも、このままでは2030年にはナイジェリアの1億2000万人をはじめ、世界の極貧人口の大半がアフリカに集中するとも予測されている。
そんな大陸が今年から米中対決の一大舞台になりそうだ。トランプ米大統領は昨年10月、開発融資機関を再編し、投融資枠を600億㌦に倍増する新政府機関「国際開発金融公社」を発足させた。
対外援助関係機関や予算の縮減に努めてきた大統領には不本意な方向転換だが、その目的は何より「一帯一路」中国への対抗だ。そして12月、ボルトン大統領補佐官がアフリカをその重要な戦場とし、米国の投資、支援を注入する新戦略を発表した。「アフリカの最大の脅威は貧困やイスラム過激派ではなく、膨張主義の中国、さらにはロシアだ」
この冒頭部分には上述の数字から見ても異議がある。そして、この大陸に1000億㌦単位の金を注ぐ中国と闘うのに、米国の財布はなお小さい。だがとにかく、アフリカの土俵で横綱・中国に対し、米国が本気でぶつかる気になった。
中国は昨年9月、習近平国家主席が600億㌦の対アフリカ新規援助を約束した。ナイジェリアはその中核の「戦略的パートナー」だ。既に高速鉄道・道路、空港、通信、資源利用など、十八番の大ハコモノ援助が進み、投資総額は17年末で270億㌦に上る。9月には両国は改めて「一帯一路」推進協力覚書を交わした。
中国は90年代から政治、軍事、文化面でも太いパイプを築いてきた。ナイジェリアは世界屈指の親中国派で、4年前の世論調査では、85%が中国の国際的影響を「良い」と答えた。政府軍がイスラム過激派「ボコ・ハラム」のテロを一昨年から一応押さえ込めているのにも、中国の協力がある。ファーウェイの通信機器も入り込んでいる。
だが、資源大国が長年中国の支援・協力を受けて、なぜ極貧人口が世界一で、さらに増え続ける見込みなのだろう。
ナイジェリアでは産油収益は庶民に回らず、貧富格差が激しい。汚職、不適正な行政・管理がいっぱい。原油価格の値下がりもあった。気候変動の影響もある。テロが減り気味でも、北部の農民はまだ怖くて農作業に行けない。政府軍の蛮行もある。
しかし、中国の援助・投資の問題点もズバリ浮き彫りになっている。ボルトン氏は、中国による贈賄、不透明な合意、債務の戦略的悪用を指摘した。要するに完全に中国のためで、相手国の民衆を向いていない。人間開発とは別次元なのだ。
中国の大規模公共事業に対し、米新アフリカ戦略は、民間投資支援を柱にして対決するようだ。中国の野放図な勢力拡大は止めてほしい。だが、米国も中露ばかりにらんでの投資・援助だと、極貧人口の削減も難しいだろう。
人間開発に活躍すべきはやはり日本である。日本の援助・投資の重要性が一段と増すと言えよう。
(元嘉悦大学教授)






