習近平政権 対 香港 トマトをどう捨てるのか

山田 寛

 

 現代史の先例を見ても、共産・全体主義政権は「『腐ったトマト』(反体制分子)は籠から放り捨てろ。側のトマトも腐ってしまうから」と考える様だ。国民人口減少を指向する場合もある。中国は今後、香港トマトをどう処理するだろうか。

 放り捨て方法は、毛沢東中国、ポル・ポト・カンボジア、北朝鮮など、政権が半鎖国で人と情報の流出入を厳しく統制していた場合と、ベトナム戦勝・南北統一後のベトナムやキューバなど、すでに流出入いっぱいの場合とで異なった。

 毛主席は1957年、国民の生命の軽視ぶりを露骨に示し、「核戦争になろうが構わない。中国は半減しても3億人残る」と発言した。66年から発動された文化大革命では、2000万人ともいう“反革命分子”が生命を奪われた。

 70年代後半のカンボジアで、ポル・ポト虐殺革命政権は人口推定750万人のうち、150万人以上を死亡させた。幹部は「ばい菌は絶滅させる。国民は100万人でよい」と言っていた。

 90年代後半、金正日総書記の北朝鮮が、約2200万人の国民から300万人前後の餓死者を出していたころ、正日氏が「600万人残れば国は再建できる」と発言したと伝えられた。数年後、ナチオス米国際開発局長官や北朝鮮研究者の萩原遼氏らが、脱北者証言や調査に基づき、「金政権は(『敵対階層』を住まわせ)忠誠度が最低の北東部を犠牲にしようと決め、食糧補助を停止した」「大量餓死させて口減らしをし、作りだした飢餓を口実に国際援助を取り込み、核・ミサイル開発にあてた」といった見解を明らかにした。

 一方、70年代後半以降、ベトナム南部から大量の難民が小船で脱出した。5分の1以上が水死したとも言われる。ベトナム共産党政権は、邪魔な連中は去らせた方がよいと考えたのか。「緩い警備で『垂れ流し』ている」との批判が、到着難民を抱える近隣諸国などから出た。

 59年のキューバ革命後、同国から米国へ難民があふれた。カストロ議長の姿勢は「去りたい『屑(くず)ども』、去るがよい」で、受刑者を難民に含め“厄払い”もした。94年にはレノ米司法長官が「国民の民主化要求を逸らすため、人々を去らせている。フロリダ海峡で大勢死んでいる。無情な策略に乗らず国に留(とど)まってほしい」と、キューバ国民に呼びかけたほどだった。

 そして香港の今。習近平・中国政権は、民主派の区議選大勝利を見て、腐ったトマトの増殖を痛感しただろう。譲歩はあり得ない。10月の共産党会議(4中全会)で決定した「愛国者主体の香港」へ管理を強めるしかない。

 香港隣接地区で武装警官隊が威嚇的な「対テロ訓練」を実施し、ネットで大規模な収容施設が建設中との噂(うわさ)も飛び、香港では「第2の天安門広場や新疆ウイグルになるのでは」との懸念も出ている様だ。

 だが毛時代と違う。オープン・ショーウインドーの香港は、世界が見つめている。大武力行使や大量逮捕の弾圧劇も、対ウイグル式“人間改造集団隔離手術”もやり難い。持久戦で民主派を一層締め付け、消耗させて追い出す戦術をとるのではないか。

 香港の研究所の9月の調査では、香港市民の42%が「海外移住したい」と答え(昨年末は34%)、その23%は移住準備を始めている。中国には好都合だ。移住希望者はどんどん出て行ってもらおう。省エネだし、米国などを過度に刺激せずに済む。残った親中派と本土から送る移住者で「愛国者」比率をずっと高められる。習主席の胸の内はカストロ氏と同じだろう。さて、その思惑通りになるかどうか。

(元嘉悦大学教授)