中国の国民監視さらに、新ハイテクシステム稼働へ

就職で優遇、ポイントで格付け、移動に制限

 中国は、国民や海外企業を監視・抑圧するための新ハイテクシステムの開発を進めている。国民の反体制的な行動を監視するとともに、国内で活動する欧米などの外国企業を、中国共産党の方針に従わせるためのシステムだ。

大規模データ構築 外国企業にも適用

 このシステムは、「社会信用システム(SCS)」と名付けられ、来年スタートする予定だったが、中国からの最近の報道によると、21年に延期される可能性がある。

ビル・ガーツ

ビル・ガーツ氏

 SCSは、複数の大都市で既に試験運用され、何百万台もの監視カメラがスーパーコンピューターに接続され、大規模なデータベースが構築されている。

 顔・音声認識技術を使って、反体制活動家から信号無視の歩行者まであらゆる活動を管理することを目指している。表面上は欧米で個人の信用情報を管理する「信用監視システム」に似ている。

 ペンス副大統領は昨年10月の演説で、SCSは「社会信用得点表」だと指摘、ポイントを獲得し「信頼が得られればどこにでも行けるが、信用を失えばどこにも行けなくなる」と計画に記されていることを指摘した。

 顔認証のツールはすでに、中国内の広範囲で使用され、その基盤となるのが道路、建物、鉄道駅、教室などに設置されたカメラだ。次世代通信規格「5G」の出現で、監視ネットワークの到達エリアは拡大するとみられている。

 中国政府は、監視強化の一環として、携帯電話のSIMカードの購入者全員に顔のスキャンを義務付けた。

 SCSはすでに国外で「企業SCS」として知られている。中国政府が、台湾、香港、チベットなどの問題に関して中国政府の指針に従わない外国企業に、順守を強制するために使われてきた。

 中国政府はSCSを「社会市場経済システムと社会統治システムの重要な一部」としている。

 中国の国家公共信用情報センターは昨年、2300万人が「信用なし」とされ、飛行機と鉄道での移動が禁止されたと報告した。別の1750万人は航空券を買えず、550万人は高速鉄道のチケットの購入が禁止された。社会信用ポイントが不足したためだ。

 中国政府は、SCSを「社会的管理」の重要な部分だという。これは、社会を形成、管理する上での共産主義思想の重要な要素だ。

 実際に、このシステムは、中国共産党の権力維持のために作られたものであり、認められていない行動がシステムで発見された人物をブラックリストに載せ、罰するためのものだと批判を受けている。従来の社会管理手法のハイテク版ということだ。

 オーストラリア戦略政治研究所の中国専門家サマンサ・ホフマン氏はSCSについて「その核心は、個人、企業などの行動を管理し、(中国共産党の)指針、支持、意思に沿わせるためのツールだ。そのために、ビッグデータの分析手法と広範囲に及ぶデータ収集が組み合わされている」と述べている。

 監視の目は若者にも及んでいる。中国共産主義青年団(共青団)は今年に入って、「信用格付アプリ「優你通(ユニックタウン)」を開発した。このアプリの利用で350点から800点のポイントが得られる。高いポイントを獲得すると、授業料の減額や、就職での優遇などが受けられる。

 同時にこのアプリは、政府が、ユーザーの政治的傾向や活動を監視するためにも利用されている。党に批判的な投稿をすると、ポイントを失い、習近平国家主席の演説を読むとポイントが獲得できるという。