集中砲火浴びる米IT企業

アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員 加瀬 みき

加瀬 みき

官民・左右から非難の声
露の選挙介入で問題点露呈

 アメリカをはじめ世界の文化や伝達、情報交換手段を一新したフェイスブックなどのIT企業への非難の声が政府ばかりか国民の中からも急激に大きくなっている。欧州連合(EU)はIT企業が低税率の加盟国で納税することで租税を回避しているとしてタックスヘイブン国に追徴を求めている。さらにサイトが売春のための人身売買に利用されている、個人情報保護の不足、他国への政治介入を目的とした広告掲載、市場の独裁的優位などの問題点が取り沙汰されるようになっている。またグローバル化に反対するナショナリストや大企業の独占に反対するリベラル、アンチ・エスタブリッシュメントなどからも一斉攻撃を受けるようになっている。

 10月19日、米議会上院はフェイスブックやグーグルをはじめとしたIT企業に対し、政治広告の広告主を開示することを求めた。これまでにもこうした動きはあったものの、連邦選挙委員会は、インターネットは大衆伝達手段そして政治メッセージ伝達手段として非常にユニークな発展的役割を果たしているとし、IT企業をテレビやラジオ、プリントメディアに課せられている政治広告の広告主を開示する厳しい規制から除外してきた。

 IT企業は、広告主を開示するなどの規制は、革新的技術開発の妨げになる、あるいは言論の自由を縛ると主張してきた。しかし2016年の米大統領選挙中にロシアがIT企業のサイトに大量の政治広告を掲載し、有権者の意思決定に影響を与えようとした証拠が明らかになるに従い、議会の要求は厳しくなった。ここまで判明しているだけでもロシア政府に関連ある企業がフェイスブックに10万ドル相当の広告を、グーグルにも4700ドル相当の広告を掲載した。当初はデジタル画面は頻繁に変わり、誰がどのような広告を掲載したかを判明させるのは難しい、ロシアが政治広告を掲載したかは分からないなどと協力を拒んできたフェイスブックのザッカーバーグ社長も3000余りのロシア政府につながりがあると思われるアカウントと広告を議会に引き渡すと申し出た。

 超有力な弁護士を抱えるIT企業を議会がどこまで取り締まれるかは不明だが、世界の文化から経済、政治の在り方までを変え、飛ぶ鳥を落とす勢いであったIT企業は米政府やEUばかりでなくアメリカの一般市民、それも政治的に右からも左からも攻撃されるようになっている。

 リベラル派はベンチャー企業の既定の枠組みに縛られない自由な開拓精神を好むが、グーグルやフェイスブックなどの力が勝り過ぎ、独占企業と化していることへの反発を強めている。またIT企業の予期せぬ影響力もある。だいたいフェイスブックやツイッターなしにトランプ氏が大統領になれたであろうか。

 一方、共和党系、特に保守的な人々は、同性愛などを許容し民主党系政治を支持するリベラルなIT企業とは文化的・思想的に合わない。政府が拡大することには反対だが、こうした企業を政府が規制することには前向きである。

 アンチ・エスタブリッシュメントの流れは全く政治経験のないドナルド・トランプ氏を大統領にのし上げ、民主党では過去から成長しない「隣のおじいさん」バーニー・サンダース氏が若者の支持を得てエスタブリッシュメントの代表とも言えるヒラリー・クリントン氏を民主党候補選出で最後まで苦しめた。

 その後も政治家らしい政治家、伝統的大企業家などのエリートや既存の制度への反発は、消えるどころか政治の行方を左右し続けている。アラバマ州でジェフ・セッションズ司法長官の上院議員辞任に伴う補欠選挙の共和党予備選が行われたが、共和党指導層が推したルーサー・ストレンジ氏が負け、既存制度を破壊することを訴えるスティーブン・バノン前大統領首席戦略官などが推す超保守派のロイ・ムーア氏が勝利した。

 こうしたエスタブリッシュメントへの反発は大学の寮の一部屋などから生まれた小さなベンチャー企業だったが、今や資材も影響力もあり過ぎる大企業となったフェイブックなどにも向けられる。IT企業はなくてはならない技術を提供するが、生活の全て、家族や友人との交流や何を読むか、購入するかなど生活の全て、われわれの思考過程まで左右するようになっている。ロシアの選挙介入がなくともフェイスブックやツイッターに振り回され、支配され過ぎてはいないだろうか、と感じる人は多い。

 またトランプ氏の支持者の一部、そして欧州でも強く脈打っている人種的・宗教的な純潔さを求めるナショナリズムも、国境や言語、人種を超えたグローバル化の下に栄えるIT企業とは思想的に対極的であり、彼らから批判を生む。

 ロシアの選挙介入をきっかけにIT企業の問題点が注目され始めた。伝統的な政治信条や制度の枠組みはぐらつき、より原始的なナショナリズムに根差すポピュリズムの次の段階ではフェイスブックやアップルなどのIT企業への怒りが目覚めそうである。

(かせ・みき)