アフガン和平、女子教育禁止の再来を許すな

山田 寛

 

 私は大学での国際問題の講義で、教育に対する暴力の問題をよく取り上げた。その際、アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンにより、通学途中に酸を浴びせられた17歳の女学生の写真を見せた。

 1996年に首都を奪取したタリバンは女子教育などを全面禁止した。その政権が2001年末、米同時多発テロ犯の国際組織、アルカイダを匿(かくま)っているとして米英軍の侵攻で打倒され、女子教育や女性就業が復活した。国会議員も約30%が女性に割り当てられた。だが、タリバンはその後も各地でゲリラ攻撃を続け、女子の学校や教員、学童生徒に爆弾、放火、井戸への毒投入、酸などのテロを繰り返した。

 被害者の写真は痛ましかったが、その少女はベッドでこう言った。「それでも私は学校に行く」。ノーベル平和賞を受賞したパキスタンの少女マララと同じ強い思い。それを、平和日本の学生たちにぜひ受け止めてほしいと思った。

 今月初め、米国とタリバンの和平協議が基本合意に達したと伝えられた。米側は、駐留米軍1万4000人のうちまず5400人を撤退させた後、期限を決めて段階的に完全撤兵する。タリバン側は、同国を米国などへの国際テロ攻撃の温床にしない。その後の国内問題は、タリバンとアフガン政府その他の勢力が協議する。そんな内容だったが、その後新たな自爆テロで米兵を含む死者が出たことなどを理由に、トランプ大統領が協議中止を言明した。だが大統領再選のため早く撤兵したいトランプ氏と、外国軍を追い出し国内を再支配したいタリバンと、思惑の方向は一致している。和平反対のボルトン大統領補佐官も更迭済みだ。遠からず協議が再開され、合意が実現する可能性は少なくない。

 するとどうなる。1970年代のベトナム戦争終末、カンボジア内戦、80年代末のソ連軍撤退後のアフガニスタン。外国軍の介入や軍事支援で支えられた政権は、それらが終わると打倒された。アフガニスタンのガニ現政権はタリバンからほぼ無視され、和平協議も蚊帳の外に置かれてきた。今月末に大統領選を予定しているが、戦闘やテロで全国の投票所の7分の2は閉鎖という半身不随選挙だ。だから、いずれタリバンが何らかの形で政権を奪還しそうである。

 そこで今同国内で、女性たちの強い懸念の声が上がっている。

 女子教育や女性の権利が抑圧され、ブルカ着用(ここのブルカは顔面まで網目で覆われ、さぞうっとうしいだろうと思ってしまう)を強制された暗黒時代が再来するのではないかとの恐怖が広がっているのだ。

 今でも女子教育は2002年ごろと比べ後退しているという。国連報告では、ひどい年には600件以上の学校・教育への攻撃事件が起きてきた。米ニューヨーク・タイムズ紙によると、現在360万人以上の女子学童生徒、10万人の女子大学生がいる。だが、男子校も含めて数カ月来400校がテロや戦闘のため閉鎖された。西部のファラ州のように、今年初めタリバンから「女子校の男の教員を全員女に替えろ」と要求され、それに従ったのに女子校が次々襲撃された所もある。

 トランプ大統領が再選のため成果を上げたいのも、米国民が家族や愛する人々の早い帰還を願うのも、全く当然だ。だが、アフガニスタンの教育時計の針を18年逆戻りさせてはならない。中東やアフリカ、南アジアなどでの人間開発と社会発展のために最も重要なのは、女子教育だとよく言われる。トランプ政権には対米テロの危険の除去だけでなく、現地の問題もさらに考えながら、和平を進めてもらいたいと思う。

(元嘉悦大学教授)