利用者増える「屋部の浦食堂」

沖縄・名護市立屋部中学校で全生徒対象に朝食提供

 沖縄県名護市立屋部中学校(宮里嘉昌校長)で、生徒に朝食を提供する取り組みが行われている。朝食を取らずに登校する生徒が多いことから、学校が民間に依頼して始まったもので、全国でも例がないという。(沖縄支局・豊田 剛)

「授業に集中できる」効果も、予算の確保が課題に

利用者増える「屋部の浦食堂」

中学生でにぎわう「屋部の浦食堂」=名護市立屋部中学校

 有志による朝食提供は昨年9月25日に始まり、毎週火曜と木曜の週2回、1食100円で振る舞っている。名前は「屋部の浦食堂」で、学校の家庭科室が食堂と化している。昨年までは平均15人が利用していたが、今年度は利用者が増え、常に最大50食を用意している。

 取り組みを始めたのは、NPOで子供の学習支援や高齢者支援などに取り組む宮里辰宏さん(43)。学校と地域の懇談会に出席した父母から、「朝食を食べない生徒が多い」(宮里嘉昌校長)という悩みがあることを知った。宮里辰宏さんは早速学校に出向き、宮里嘉昌校長と面談して、朝食提供の実現化に向けて意気投合した。宮里辰宏さんも朝食を家で食べていない生徒が多いことを問題視していた。登校中、歩きながらパンやカップラーメンを食べ、包みや容器をポイ捨てする生徒の姿を何度も見掛けたからだ。

 朝食を提供する対象は貧困家庭の子供に限定せず、全生徒に門戸を広げている。貧困に限定すると、「ほかの生徒の目が気になって利用しづらい」「陰で何か言われ、いじめの原因になる」といった生徒目線の気持ちを考慮した。

利用者増える「屋部の浦食堂」

取材に応じる宮里辰宏さん=名護市内

 「対象を全生徒に広げることで、広い意味での貧困対策になる。貧困家庭でなくても、居場所のない子供たちが案外多い」と宮里辰宏さん。

 「普段は家で朝食を食べているが、慌てて登校した日に利用することがある」(2年男子)、「父子家庭の友達もいるが、分け隔てなくみんなで和気あいあいと楽しんでいる」(3年女子)など、利用者の評判は上々だ。

 実行委員会が作成したチラシには「朝ごはんを食べよう」という簡潔なメッセージが大きく書かれている。朝ご飯を食べる利点として、①栄養素とエネルギーの供給②体温を上げて体を目覚めさせる③体のリズムをつくる――ことを挙げている。

 宮里辰宏さんはNPO活動を通じて市内には多くの人脈を持つ。その中に教育委員会の知り合いが、すぐに活動を理解してくれたという。

 市役所で就労支援に携わっていたこともある宮里辰宏さんは、役所での支援に限界があることに気付き、民間の立場から支援することを決めた。

 食堂は多くのボランティアによって支えられている。屋部中OBの嘉陽宗一郎さん(24)はこれまで何度もボランティアで参加している。「はじめは数人しかいなかったが、今では安定して生徒が集まっている。生徒からは授業に集中できるようになったという意見が聞けてうれしい」と話す。

 食堂を運営するに当たり、メニューの考案や栄養面の管理は欠かせない。10月からは、名護市にある名桜大学から食育コーディネーターと学生がボランティアで毎回参加している。

 1回目のメニューは、ご飯、冬瓜(とうがん)とわかめの味噌(みそ)汁、卵焼き、鯖(さば)の塩焼き、レタスサラダ、オクラと花鰹(はながつお)の和(あ)え物。理想的な一汁三菜を心掛けている。

 課題となるのは予算の確保だ。行政に対して補助申請はしていない。補助が止まった場合、続けられなくなる可能性が高いことを想定しての判断だ。こうした中、地域貢献の一環として地元の企業が食材を寄付してくれている。また、市内の高校が校内で栽培する野菜や肉などを提供してくれたり、父兄からの物品援助もあるという。

 宮里さんは、別の市内の中学校から同じような取り組みをしたいという相談を受けている。朝食を抜きがちな子供の生活習慣改善が期待できることから、「将来的には、市内の全中学校で朝食が提供できるようになれば」と希望している。