隠岐島前高校の人材育成力


 島根県隠岐に海士町という町おこしで知られる離島の町がある。ここに隠岐島前高校という島留学で成功した高校がある。

 先日、ある地方自治の勉強会で隠岐島前高校の魅力について聞く機会があった。10年前廃校寸前だったが、「教育魅力化プロジェクト」を立ち上げ、平成29年には生徒数が約2倍に増え、V字回復をした。

 島外はもちろん、海外からも若者が集まってくる。教育寮を完備し、親元から離れても寂しくないように、島留学生一人ひとりに「島親」がつく「島親」制度を設けている。島親さんの畑仕事を手伝ったり、海釣りや祭りに連れて行ってもらったり、地域全体で生徒の夢を応援する。自然を含めた島全体が生徒を育てる学校のようになっている。

 地域の人が生徒たちの夢を後押しすれば、学びも真剣になる。地域に見守られている感覚があれば、不登校、引きこもり、非行など生まれようがない。

 驚くのは離島でありながら世界とつながっていること。シンガポール海外研修、ブータンやロシアを訪問する「グローバル探究」など、生徒の約40%が海外を体験しているという。さらにコスタリカ、ロシアなど海外留学生も受け入れている。

 教育内容も魅力的だ。地域課題にチーム協働で取り組む探究学習を取り入れ、課題解決型の考える力を育てている。

 こうした教育魅力化プロジェクトで、難関大学に合格したり、海外の大学を目指す生徒もいたり、多様な人と豊かな自然と触れ合う中で自己成長を遂げている。

 海士町が掲げている言葉が面白い。「ないものはない」。つまり、塾もコンビニも何もないが生きるために必要なものは全部ここにある。甲子園で準優勝した秋田の金足農業高校もそうだが、何もない地方にこそ人を育てる人材育成力がある。

(光)