「あなたの知らない筋肉の世界」 筋肉量減で基礎代謝が低下
老化機構研究チーム・萬谷博研究副部長
健康寿命を延ばすには、エネルギーや水分を蓄積したり、静脈血を心臓に送り返す“ポンプ作用”を行う筋肉の維持・改善が必要不可欠だ。「今、筋肉が熱い!?~あなたの知らない筋肉の世界~」と題して、このほど、老年学・老年医学公開講座(主催・東京都健康長寿医療センター)が練馬文化センターで行われた。東京都健康長寿医療センター研究所老化機構研究チームの萬谷博研究副部長は「知っておきたい筋肉のこと:基礎から疾患まで」と題して筋肉の話と老化に対する基礎研究について講演した。
ウイルスなどへの免疫力下がる
筋肉には、自分の意思で動かして筋トレなどで鍛えられる「骨格筋」のほかに、脳からの命令で自分の意思と無関係に動く「心筋(心臓を動かす)」と「平滑筋(血管や胃腸を動かして血圧や消化を調整する)」がある、成人男性の体重の約40%が骨格筋で、平滑筋を含めると50%を超える。筋肉には血管や内臓を保護する役割もある。
体内で消費されるエネルギーの約3割が手足や呼吸などの運動、残りは体温産生などに使われている。一番使われるのが糖質のブドウ糖で、余裕があればグリコーゲンの形で筋肉に貯蔵される。次がアミノ酸で、必要時にタンパク質を分解してエネルギー源にする。筋線維は、ほとんどタンパク質からできており、アミノ酸を貯蔵する役割もある。脂質は皮下脂肪などに貯蔵されやすいエネルギーで、必要時は脂肪酸に分解して利用する。
基礎代謝は生きるために最低限必要なエネルギーで、筋肉量が減少すると、基礎代謝が低くなる。基礎代謝の低下は体温低下の原因となり、細菌とかウイルスへの免疫力、抵抗力が下がる。
過度なダイエットは糖質不足で“飢餓状態”を招く。脳は活動のために多量の糖を使うので、ダイエットで血糖値が下がると、集中力が途切れたり、意識障害を起こすこともある。糖質不足を補うために、体は、アミノ酸からブドウ糖を作ることができる(糖新生)。しかし、アミノ酸を作るのにタンパク質(筋線維)を分解するため筋肉量が減少することになる。
長時間の立ち仕事での足のむくみや、長時間の座り仕事・飛行機での移動時に起きるエコノミークラス症候群の予防に、下肢の筋肉の“ポンプ作用”が大きな役割を果たす。また、加齢とともに水の“貯蔵機能”を持つ筋肉が減ると、体水分量が減り、脱水症状を起こしやすくなる。唾液も減少し、誤嚥(ごえん)を起こしやすくなる。適度な運動とバランスの良い食事で、筋肉を維持・改善して、健康寿命を長く保つことができる。
筋ジストロフィー症は遺伝的に筋肉が壊れる病気で最終的に呼吸もできなくなってしまう重篤な疾患。萬谷研究副部長のグループは、筋肉の老化の基礎研究から、筋肉を維持するために重要な働きをする“糖鎖”を発見した。その糖鎖の働きを解明して、筋ジストロフィーなどの筋疾患の治療や予防につなげることを目指している。






