なぜ沖縄に広大な米軍基地が
沖縄大学教授 宮城 能彦
本土移転阻んだ憲法9条
読み方で印象変わる新聞記事
モノゴトは立場や角度を変えてみると全く別のものに見えてくる。あるいは、立場を変えて見たり考えたりすることで全く正反対の印象を受けることがある。これは、メディア・リテラシーの基本であることは言うまでもない。
新聞記事を読んでいると、見出しと本文記事が微妙に異なることがたまにある。それは、編集者が意図していることもあれば無意識にそうなってしまったこともあるだろう。
先日も、沖縄タイムスを読んでいて、そのような記事に出合った。
米海兵隊の要望を拒否
見出しはかなりセンセーショナルで、「海兵隊、本土移転を要望/日本政府は受け入れず」というものであった。おそらく、沖縄の新聞を読み慣れない人にとっては、その大きな見出しを見て一瞬、「今、起きている事件」だと思うかもしれない。だが、見出しはもう1本「93年 沖縄から撤退予測」とある。海兵隊が本土移転を要望したのは1993年のことなのだ。
「東西冷戦終結後、米海兵隊当局が、沖縄からの撤退を余儀なくされると予測していたことが分かった。当時、パウエル統合参謀本部議長の特別補佐官として、在沖米海兵隊の移転検証作業に関わったローレンス・ウィルカーソン氏に、沖縄の基地・演習場の戦略的な価値や日米両政府の対応などについて聞いた」(沖縄タイムス+プラス プレミアム2019年5月6日)すなわち、インタビュー記事なのである。
そのインタビューの論点は、①海兵隊は基地の本土移転を望んだ②それは自衛隊との共同訓練等本土の方が効率的効果的な訓練ができるから③米本土移転は日本による駐留経費負担がなくなるので問題外④それをかたくなに受け入れず沖縄駐留を決めたのは日本政府である―というものであった。
この記事を読む限り、沖縄に米軍基地の過重負担をさせているのはアメリカではなく日本政府だという強い印象を受ける。そしてその方針は今でも変化せず、だからこそ日本政府は沖縄の「民意」を無視して辺野古の埋め立てを止めないのだと読者は思うであろう。
ところが、解説の隣にある山本章子琉球大講師による「識者評論」を読むと、印象がまたガラリと変わってしまう。
見出しは「沖縄撤退『連立』の壁/海兵隊巡る証言/細川政権の内情と符号」。内容は、①沖縄の米軍基地固定化を危惧する大田知事が「細川首相に海兵隊の沖縄撤退を言わせた」②「細川内閣期の社会党はまだ日米安保条約廃棄・自衛隊違憲という看板をおろして」いなかった③そのため社会党にとって「海兵隊の日本本土移転は検討することさえ党の立場を危うくするものだった」―というものである。
すなわち、本土移転を要望する米海兵隊と沖縄県民を無視して、結果的に海兵隊の沖縄駐留を存続させ、普天間基地の県内移設を進めたのは細川政権、特に当時の社会党であったということである。この解説を読まない限り、印象は全く異なったものになってしまう。
この印象の違いは、私にはとても重要なことだと思える。
日米安保の象徴を隠す
沖縄になぜ広大な米軍基地が存在しているのか。しかも、1972年の沖縄の日本復帰以降むしろ米軍基地は増加しているというが、それはなぜなのか。それは、第一に日米安全保障条約があるからだと多くの人たちが思ってきた。あるいは革新側は、日本本土による沖縄差別があるからだとしてきた。
しかし、今回の記事から分かることを誤解を恐れず単純化して言うのならば、沖縄に広大な米軍基地が存在するのは、日米安全保障条約とともに憲法9条があるからだ。
すなわち、旧社会党のように、憲法9条によって日本の平和が守られているという主張をするためには、米軍基地という安保の象徴を国民の目から見えない「沖縄」に駐留させ続ける必要があったのである。
今回の記事は、日本本土の差別の結果で沖縄に広大な米軍基地が存続しているということを訴えたかったのだろう。しかし、少し見る角度を変えて見ると全く別のことが見えてしまう。その典型的な記事だったのかもしれない。
(みやぎ・よしひこ)











