独善性と政治色濃い性教協 足立区立中学での性教育問題

要領」逸脱を推奨する学者
「慰安婦」紹介する授業も

 3月5日に行われた東京都足立区立中学校の性教育が都教育委員会(都教委)から学習指導要領(要領)を逸脱し課題があったと指摘された問題で、授業を行った教諭は性教育を推進する一般社団法人「“人間と性”教育研究協議会」(性教協)の幹事だった。性教協は都教委に対して、都議会で「学校を指導する」と発言したことの撤回を申し入れるなど、反発を強めるが、性教協とはどのような団体なのか。
(社会部・石井孝秀)

都教委「指導」に反発
幹事だった問題授業の教諭

 性教協は先月13日、都内で集会を開き、足立区立中学校で行われた性教育が都教委から調査を受けることになった経緯を報告すると共に、文部科学省に対する要領の見直し要求を行うことなどを確認した。また、発表者として招かれた新潟大学の世取山洋介准教授(教育学)は、約100人の参加者を前に、「教育への不当支配」という観点で今回の事態を解説した。

橋本紀子氏

性教協が都教委に申し入れをしたあと開いた記者会見で世界の性教育について説明する橋本紀子名誉教授=4月6日午後、東京・西新宿の都庁(石井孝秀撮影)

 行政側の対応を「国家統制」と結び付け、「性をコントロールして人間をコントロールするのが、国家の人民管理のポイント。国家に人生を握られないためにも性教育は自由でなければならない」と強調。その上で、「安倍(首相)の教育への不当介入に反対するという活動と結びつけなければならない」と発言した。

 さらに「統制が強化されることで、政党や政治家の影響下にある住民による違法教育活動狩りが起きる」と語るなど、保護者や周辺住民からのクレームすらも政治的圧力と結び付けた。

 会場には、世界各地の性教育について説明する場も設けられた。発表者の女子栄養大学の橋本紀子名誉教授は「性交、妊娠、避妊や中絶は多くの国で中学生段階までに扱っている」と主張。わが国の要領を国際標準から整備し直すことを求めた。

 橋本名誉教授の編著書「教科書にみる世界の性教育」(かもがわ出版)が会場でも販売。同書は各国の指導例の紹介のほか、日本の性教育を「バッシングによって委縮」したと説明している。

 その上で、要領外の内容を教えることは違法ではないとして、総合の時間などで性教育を行うことを推奨するなど、要領を軽視する姿勢が目立った。性教協のホームページ(HP)でも同書は大きく紹介されており、執筆者には数人の性教協幹事が参加している。

 足立区立の中学校では、「総合」の時間に“人権教育”として「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」などの文言を使い「性の安全を保障するための授業」(授業計画書)を行った。しかし、要領では、性交については小中高では取り扱わず、避妊・人工妊娠中絶は高校で扱うことになっている。

 このため、都教委は先月26日の定例会で、性教育は要領を踏まえ、子供の発達段階に即して行うことを、すべての都立学校と区市町村の教育委員会に周知することを確認した。

 一方、集会では、発表者が「子供の発達段階を教育を止める手段にしており、(都教委の)要領の解釈もあり得ない。頭が悪過ぎる」と暴言を吐くなど、性教協の持つ政治色と独善性があらわになる場面もあった。

 性教協の設立は1982年。創設者の山本直英氏(故人)は「科学と人権を柱とする性教育」の実践を掲げたが、設立趣意書を見ると、道徳に基づく教育や純潔教育に対しては「歴史を逆行させる」という理由で否定的だ。

 実際、問題の授業を行った教諭は「好きだからと性交したら、しょっちゅう子供ができる。だから人間は工夫をして、妊娠を避けるために避妊と人工妊娠中絶を編み出した」と力説。「10代の性交にはリスクがある」と指摘しながらも「(性交渉を)するかしないかは、自分が決めること」と強調した。

 このほか、性教協は性教育の実践事例を幾つかHPで紹介している。ある女子中学校の教諭は「従軍慰安婦にされた少女たちを題材に性が人間にとってどれだけ尊いものかを考えさせる」という政治色の濃い授業を実施。「一番手応えのある反応が戻ってきた」と成果をアピールしている。

 性教育をめぐっては2003年、都立七生養護学校(東京・日野市、現・七生特別支援学校)で、性器を取り付けた男女の等身大人形で性交を教えるなどの授業が行われ、都教委は同校教諭らへの厳重注意や人事異動の処分を行い、教材も没収する事態になった。教員らはこれを不服として、都教委などを相手に訴訟を起こしたが、性教協はこの裁判を支援した。