物議を醸す、沖縄在住重度知的障害者の高校進学
17歳の男性が3年連続で定時制普通科高校に不合格
重度知的障害がある17歳の男性は、定時制の県立普通科高校の一般入試を受験したが、3年連続で不合格になった。障害者に対する差別だとして、少年の家族や関係者は訴えているが、あくまでも県教育庁は正当な手続きで判断したとして反論。一人の受験をめぐり、政治的議論を巻き込むまでに至っている。(沖縄支局・豊田 剛)
家族や関係者は「障害者への差別だ」と訴える
「正当な手続きで判断した」と反論する高校・県教育庁
沖縄本島中部に住む男性は3年連続で普通科高校を受験したが、3回とも不合格となった。受験した定時制高校は、結果について「実施要綱に従い、テストの点数と内申点を踏まえて総合的に判断した」とコメント。県教育庁も現状から、判断は妥当だったとしている。
両親は、特別支援学校ではなく一般の県立高校での学びを求めて、県教育庁と話し合いを重ねてきた。両親や支援者は、障害者が一般試験で点数を取ることが難しいことから、選抜方法や評価尺度の多様化を求めていたが、認められなかった。
県教育庁は、県議会の答弁で、「受験時の合理的配慮は進めたものの、受け入れ態勢の構築には時間がかかる」と説明している。
少年を支援するNPO法人 沖縄県自立生活センター・イルカ(長位鈴子代表)など障害者の自立支援6団体は昨年12月、男性に対する県教育庁の対応は「本来目指すべきインクルーシブ教育の理念に反する、障害者への差別だ」として、県教育庁宛てに抗議文を提出した。
文書は、重度の知的障害者であることを理由に学びを保障しないのは「不当な差別」だと指摘。男性は3年連続で高校受験の意思を示していることから、「現在まで準備期間があったにもかかわらず、一切の行政としての合理的配慮、環境整備の責任を放棄した。奪われた権利を取り戻すまで徹底的に闘う」と訴えた。
両親は、同様の陳情に絡む県議会文教厚生委員会での参考人招致に本人と一緒に参加し、「健常者と障害者を分ける分離教育とならないよう、制度の見直しを訴える」と強い姿勢で求めた。
政治家の動きとも連動している。れいわ新選組の舩後靖彦参議院議員は2月10日、沖縄県庁を訪れ、県教育委員会に改善を求める要望書を提出した。その中で、他県の高校教育における合理的配慮の取り組みなどに触れ、「最も教育を必要としている子供を排除したところで成り立つ、『適格者主義』の教育は、ある意味教育機関としての敗北ではないか」と批判した。
少年の両親は、相模原市の福祉施設の無差別殺傷事件を引き合いに出し、適格者主義を残す県立高校入試制度のあり方や、その選抜方法を是認する(学校の)態度に、「やまゆり園事件の犯人と変わらない考えだ」とコメントした。この発言は地元紙に掲載されたが、すぐにネット上から削除された。
こうした主張について、那覇市の高校の教員は、「学力が一定程度に達していなければ定員割れしても不合格となるのは当然だ」と指摘。「特別支援学校という選択肢はあったはずだ」と疑問視した。ネット上でも、「仮に学力が水準に達して生徒を受け入れた場合、皆と同じスケジュールをこなすことが困難で、学校側の負担はものすごい」と、不合格判定に理解を示す意見が多数を占めている。