韓国 15日に総選挙 政権審判論覆い隠すコロナ

 新型コロナウイルスの感染拡大が深刻だった韓国で、このところ1日当たりの新規感染者数が減少傾向にあり、コロナ防疫が奏功したとして文在寅政権を評価する世論が増え始めた。当初、今月15日の総選挙で最大の争点になるとみられていた政権審判論は影を潜めつつあり、与党には追い風だ。
(ソウル・上田勇実)

ピーク越え? 文氏支持率上昇
与党勝てば偏向的検察改革も

 韓国保健福祉省疾病管理本部のまとめによると、1日当たりの新規感染者数は2月末の900人超をピークに減少傾向にあり、今月5日は47人だった。感染者総数が1万人を超えたとはいえ、感染・死亡ともに宗教団体関係者が集団感染した南東部の大邱・慶尚北道に集中しており、人口約975万人のソウル市で死者は6日零時現在ゼロ。国内では収束は遠いもののある程度抑え込んでいるという認識が広がっている。

黄教安元首相

2日、ソウルで支持を呼び掛ける韓国最大野党「未来統合党」代表の黄教安元首相(EPA時事)

 各種世論調査で文政権の支持率は軒並み1年以上ぶりに50%を超えた。韓国ギャラップの調査では支持する理由で最も多かったのは「コロナ防疫」で、政党支持率も与党・共に民主党の41%に対し、保守系の最大野党・未来統合党は23%にとどまり、その差は再び開いた。

 文氏は韓国の迅速な検査体制などが世界の注目を浴びる中、諸外国首脳との電話外交に余念がない。公式選挙戦が始まった2日には南米コロンビアのドゥケ大統領が文大統領との電話会談で「韓国のコロナ対処法を尊敬し、それに学びたい」と語ったことが報じられた。「コロナ退治で成果を挙げる文政権」というイメージを有権者に印象付けている。

 コロナが蔓延(まんえん)し始めた頃、韓国では総選挙の行方よりコロナへの不安や恐怖が人々の気持ちを支配していた。ひと頃はコロナ防疫の初動を誤ったとして文政権批判も上がったが、最近はピークを過ぎたのではないかというムードも出始め、逆に文政権評価の声が増えている。結局、コロナ騒動が、総選挙で争点化が予想された政権審判論をずっと覆い隠しているのが現状だ。

 だが、与党が総選挙で勝利することを憂慮する声は根強い。

 中道・実用路線を標榜(ひょうぼう)する国民の党の安哲秀代表はマスコミ団体が主催する討論会で、与党候補者には文氏だけでなく検察改革の美名の下で起用した曺国(チョグク)前法相にも近いメンバーが多いことを問題視し、「与党は総選挙後に曺国大統領を誕生させようとするだろう」と述べた。

 曺氏は文氏に有利となる偏向的な検察改革を強引に推し進める中心人物。この検察改革は大統領が牛耳る新たな検察機関の設置をつくるのが柱で、すでに関連法案が成立し7月に施行される。いくつも浮上している文氏とその周辺への捜査の芽を摘み、文氏退任後も司法の裁きを回避するのが真の狙いとみられている。

 与党の衛星党と揶揄(やゆ)される開かれた民主党は、今回の選挙で比例代表名簿の2番にその曺氏に近い崔康旭・前青瓦台公職紀綱秘書官を起用した。崔氏は曺氏の妻から依頼され、曺氏の息子の不正入学を手伝った容疑で起訴されたが、当選した暁には曺氏家族をめぐる疑惑の捜査を指揮する尹錫烈検事総長を新たな検察機関の捜査対象1号にすると公言し、物議を醸した。

 このほか文氏に近い青瓦台出身者も数多く出馬しており、「国会内にも文在寅親衛隊ができてしまう」(元韓国政府高官)と嘆く声が聞かれる。与党候補の中には1980年代に北朝鮮にシンパシーを覚え、左派学生運動に傾倒した経歴の持ち主も少なからずいる。ある公安問題専門家は「親北法案の発議を乱発するのでは」と警鐘を鳴らしている。