危機のアジア、北朝鮮問題で米中対立も ジェームズ・ショフ氏
カーネギー国際平和財団上級研究員 ジェームズ・ショフ氏(上)
アジア情勢が風雲急を告げている。北朝鮮の核開発を阻止するために、米国が軍事力行使に踏み切れば、日本を含め地域全体に甚大な影響が及ぶことは避けられない。また覇権主義的傾向を強める中国への対応は、アジアの未来を左右する重大テーマだ。「危機」に直面するアジア情勢について、識者に聞いた。
トランプ外交、一貫性なく不確実性続く
南シナ海、東南ア諸国の結束助けよ
トランプ政権は昨年12月18日に発表した国家安全保障戦略で対中強硬姿勢を示した。これをどう評価するか。

ジェームズ・ショフ氏 ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号を取得。米日財団や外交政策分析研究所などを経て、2010年から国防総省の国防長官室で東アジア政策担当上級顧問を務めた。12年9月からカーネギー国際平和財団上級研究員。
南シナ海における中国の行動を批判し、(国際秩序の現状変更を目指す)「修正主義勢力」と位置付けたことは良かった。「自由で開かれたインド太平洋戦略」を基盤として同盟国との関係性を重視したのも評価できる。全体的には「米国第一」主義的な考えと伝統的な米国の戦略とで折り合いをつけたと言える。
今後、トランプ政権の対中政策はどうなると考えるか。
トランプ大統領の外交政策で最も不明瞭なのが対中政策だ。当初は対中強硬派が多く政権入りしたので、安保面や貿易面で中国に対して強硬路線を取ると思われた。だが、その後は北朝鮮に対する影響力行使を期待したこともあり、中国への態度は軟化した。
トランプ氏の言動を見ていると対中政策に一貫性がなく、今後も不確実性は続くと予想される。ただ、北朝鮮に対する軍事的圧力は高まっており、これが米中対立を引き起こす可能性はある。貿易面で米中摩擦が起きる可能性も高い。
南シナ海の中国支配や軍事拠点化を防ぐ方法はあるのか。
南シナ海の状況は、おそらく変わらないだろう。米国が取れる選択肢が非常に少ないからだ。「航行の自由」作戦は政策表明で、中国の支配を防ぐことにはならない。
米国ができることは、同盟国や東南アジア諸国と集団協力体制を築くことだ。そのためには東南アジア諸国の意思を統一する必要があり、日米がオーストラリアや韓国と一緒になって東南アジアの結束を手助けしなければならない。それができれば中国も経済や外交への影響を懸念して、行動を制限するようになる。
トランプ氏の対北朝鮮政策はどう見る。
対北朝鮮政策はトランプ政権の外交政策で最も支持できる。最大限の圧力をかけているほか、伝統的な国際協調で他国にも圧力強化を求めた結果、北朝鮮に対する経済的圧力はこれまでにないほど大きくなった。制裁だけで北朝鮮の行動は変えられないかもしれないが、体制を弱体化することはできる。ただ、中国は米国のために北朝鮮問題を解決する意思がなく、あまり期待できないだろう。韓国も米国と同じ考えで北朝鮮問題に取り組んでいない。韓国が協力しなければ効率的な軍事圧力をかけることができないため、考えを変えさせる必要がある。
米国が北朝鮮を攻撃する可能性は。
可能性はあるが、実行に移すかどうかは未知数だ。攻撃の可能性は1年前で5%くらいだったが、今は20%程度までになった。まだ50%に達していないが、以前に比べると攻撃の可能性は高まっている。
米国では北朝鮮の核保有容認論が出ている。
北朝鮮の核保有は認めるべきでない。国連のほか世界各国が朝鮮半島の非核化に取り組んでいるのに、核保有を容認したら信頼を失う。
(聞き手=ワシントン・岩城喜之)





