中国、北朝鮮について重要記事を連発した年末年始の小紙1面トップ

◆目離せぬ中朝の動向

 今年元旦の新聞第1面トップ記事は、北朝鮮によってもたらされる国難に直面する日本に関わる重要ニュースで久々に競り合い、活気づいた。読売「中露企業 北へ密輸網」は、中露朝ネットワークによる国連の対北制裁破りの実態を、産経は軍事力拡大に走る中国海軍が2030年までに4隻の空母打撃群を運用する計画であることをそれぞれ暴いたのが目を引く。また毎日も、一昨年8月に韓国に亡命した北朝鮮の元駐英大使、太永浩(テヨンホ)氏の単独インタビュー記事を掲載し、日本人拉致事件をめぐる北のあきれた目論見(もくろみ)や対応などをが明らかになった。

 それぞれ時宜にかなった興味深い情報を伝えるニュースであるが、すでに昨日の小欄で増記代司氏がしっかりウオッチしているので言及は割愛する。

 北朝鮮問題に明け北朝鮮に暮れた昨年に続き、弾道ミサイルや核実験の挑発をめぐる緊張は今年も続きそうなだけでなく、緊張がさらに高まり臨界点に一層近づく恐れがあるだけに、前記の報道からは目が離せない。と同時に、北朝鮮に目を奪われるあまり、その陰に隠れて南シナ海での覇権、軍拡をはじめとする中国の不穏な動向にも注意、警戒を怠ってはならないのである。

◆米社会へも工作浸透

 そうした意味では手前みそではあるが、小紙第1面トップも元旦前後から連続してなかなか気を吐いたニュースを掲載しているのはもっと注目されていい。大晦日(おおみそか)のニューデリー時事「中国、南アジアで浸透/スリランカの港を99年租借」は、中国が推し進めるシルクロード経済圏構想「一帯一路」による南アジア進出の、かねて懸念されていた“闇”の実態の一端を浮き彫りにした。港湾や鉄道など莫大(ばくだい)な建設費の融資のカタに港などの租借で軍事拠点化が懸念され、インドなどが警戒を募らせている現状を伝えたのである。

 中国の手が伸びるのは南アジアだけではない。競争パートナーである米国社会の内部にも食い込んでいて、影響力拡大は米議会からも警戒の声が上がり始めているほどだ。

 小紙ワシントン・岩城喜之特派員の元旦付「米社会に浸透深める中国」は、非営利組織「全米民主主義基金」(NED)の報告書を基に、表題の実態の一端を伝えている。NEDは「シンクタンクや大学などに資金提供して懐柔する一方、批判に対しては圧力で抑え込みを図」る中国の手法を「シャープパワー」と定義。軍事力や経済力による圧力の「ハードパワー」や文化や価値観で魅力を伝える「ソフトパワー」の、どちらでもないシャープパワーが「『中国の新たな対外世論操作戦略だ』と強調」している。

 記事はシャープパワーのコワさについて、NEDの「取り込んだ後に相手が抵抗できないよう工作活動を仕掛けることだ」との言及から、昨年10月に中国共産党の汚職などを暴露した中国人実業家、郭文貴氏の講演会を主催する大手シンクタンクに、研究員の中国入国禁止で脅迫して中止に追い込んだことなどを例示して紹介。「共産党や独裁体制に対する批判の抑え込みを図っているのも特徴」だと問題を指摘した。

 中国が世界にまき散らす懸念は南シナ海の軍事拡張ばかりではない。中国の米国内社会への工作浸透についても、今や深刻な懸念事態である。記事は決して見過ごせない問題に、ようやく対応し始めた米国の最新動向を伝えているのである。

◆党上層部に反対勢力

 「ワシントン発 ビル・ガーツの眼」(3日)は中国共産党の内部文書から発覚した「(中国の)北へミサイルなど供与計画」の暴露情報を次のように伝えた。

 「中国共産党は昨年9月、北朝鮮が核実験を凍結すれば、北朝鮮への支援、新型ミサイルを含む軍事援助を強化することを極秘に計画していたことが、党の内部資料」から分かったというものだ。情報の確度は高いと思われるが、昨年11月の党中央委の宋濤・党中央対外連絡部長訪北の北朝鮮幹部との会談内容も、伝えられることと大きく違っている。中国の北朝鮮への圧力がしっかり行われているのか、大きな疑義も出てくるのである。

 この記事はもう一つ、厳格に管理されている中国の極秘内部文書がリークされたことで、習近平「一強」支配体制の党上層部に、反対勢力が存在する可能性も指摘している。

 いずれも、中国と北朝鮮についての重要情報を伝える興味深い記事である。

(堀本和博)