海洋国家目指す中国、大陸国家の発想が呪縛に 茅原郁生氏
拓殖大学名誉教授 茅原郁生氏(下)
中国にとって尖閣、台湾、南シナ海の優先順位トップは?
核心的利益といわれた南シナ海だろう。
中国は一帯一路を当面の対外戦略としているが、その一路戦略では南シナ海はインド洋と太平洋の連接海域で、南太平洋に出る拠点となっている。
一帯一路は太平洋正面に領域拡大を図る中国が、米パワーに跳ね返されて東進をいったん棚上げし、西進に動いてユーラシア経済圏を構築することで力を蓄えようとしているものだとされる。
そうしながらも碁の布石のように南太平洋にも足掛かりを残している。台湾と南シナ海を押さえたら、太平洋西半分への影響力は強化される。その意味でも南シナ海は台湾と同じく重要だ。
大陸国家が海洋国家に転じる時のきしみは?
中国人の発想なり、考え方は海洋国家にはなじまないと思う。大陸国家の主権は、固定した平面を占有することで生まれる。それに比べ海洋というのは専有ではなく、航行の自由なり共有し利を分かち合ってこそ意味がある。国際公共財の理解がなければ海洋管理はできない。
だが中国人は、まず主権と専有権を主張する。大陸国家の陸地に対する発想の呪縛から離れられない。そういう発想からの脱却ができない限り、中国は海洋国家として共存できない。
南シナ海で中国がやっているのは、九段線のようにエリアを自分のものにしようとしている。七つの岩礁を埋め立てて飛行場を造り、レーダーやミサイルを据えて、陸地化することで主権を主張している。中国は、「力の信奉者」的な国家で、力で影響圏を広げることは一時的にはできても、本当に海洋国家として発展できるかとい うのは疑問が残る。
インドの地政学的価値は?
トランプ米大統領もインド太平洋戦略を打ち出したが、海洋国家の発想からだ。日本としてはインドと仲良くし、中国ににらみを利かせる遠交近攻が上策ではないか。
さらに安倍首相がいうダイヤモンド戦略がある。日米豪印の4カ国が結び付いて、日米同盟の補完的な地域組織として関係強化に動くことは大事なことだ。4カ国は、海洋国家であり民主主義国家で価値観の共有ができる。
憲法改正問題は?
国防軍の存在は当然のことであるが、9条2項で陸海空戦力はこれを保持しないと言っておきながら、自衛隊明記というのは矛盾しないのか。2項だけ外せばいいだけの話ではないか。
いずれにしても憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」というのは、実態ではなくなっているのだから、関連部分と総合的な改正で国防軍保持を位置付けることが重要だ。
孫子の兵法の国・中国は負ける戦争はしないと思うが、日本が気を付けるべき点は?
孫子の極意は「戦わずして勝つ」だ。戦争を戦略的に見ている。要は戦争目的を達成すればいいのであって、一番いいのは戦争しないで相手を負かすことだ。その手だてとして、中国はソフトパワーによる勝利というものに注力し始めた。
近年、中国は「三戦(心理戦、輿論〈よろん〉戦、法律戦)」を重視している。民主主義国家の弱点を突くソフトパワーの攻勢だ。南京事件や「従軍慰安婦問題」など歴史戦も輿論戦の一つだ。そうした「三戦」への真剣な対応策や民意の強靱(きょうじん)性が日本には求められる。
(聞き手=池永達夫)
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