中国強軍体制、近代化の足縛る「党の私兵」 茅原郁生氏
拓殖大学名誉教授 茅原郁生氏(上)
中国の強軍体制をどう見るのか?

かやはらいくお 1938年7月14日、山口県生まれ。防衛大学校卒業。陸上自衛隊入隊、第7師団司令部幕僚長、防衛研究所研究部長を経て拓殖大学教授。著書は『中国軍事論』『中国軍事大国の原点』(24回アジア太平洋賞)など多数。
中国は昨年10月の共産党大会で、21世紀中葉を目指した覇権戦略と一体となった強軍戦略の追求を表明した。
習近平思想が党規約に盛り込まれ、毛沢東が国を開き、鄧小平が国を富ますホップ・ステップに続くジャンプ期として習氏の強軍戦略があり、軍事改革と近代化が進められている。しかし中国軍事力の現状や経済成長率が鈍化する中、国防に投資できる国家資源の制約状況を考えると、強軍戦略にはかなり無理がある。
軍事改革の方はどうか?
習氏の軍事改革には基本的ジレンマがある。統帥権を握る軍事委員会主席就任以来、言い続けてきた「現代戦に勝利できる軍隊」、一方で「党の軍隊であることは忘れるな」との厳命もある。中国人民解放軍は、国家の軍というより共産党の私兵の位置付けだ。ただ国防軍としての機能も期待されている。
解放軍は最大規模の軍隊でありながら質的戦力では途上段階にある。軍事改革も軍事的な合理性を追求する近代化だけではなく、政治性やイデオロギーも問われている。いわば二兎を追う軍事改革で、行き詰まることも考えられる。
だからといって中国軍事力を侮ってはいけない。一旦、戦争が始まると、兵器にしろ戦闘員にしろ戦力はどんどん消耗する。だから質的戦力の近代化に難が残っても大量の軍事力を誇る中国の有利性は生きている。
習氏は軍を掌握しているのか。
掌握しつつあると思う。
2年前に始まった軍事改革は実に巧妙で、軍権を握る手段として反腐敗闘争を活用した。胡錦濤時代から郭伯雄、徐才厚両大将が中央軍事委員会の副主席として軍トップに座っていた。習氏は、両大将の重石を汚職摘発で潰し、さらに両大将につながった汚職軍人を次々と摘発するなど、軍の弱みを握って痛みを伴う軍事改革への反対を封じてきた。そして空いたポストに彼が信頼できる将軍を就けてきた。
また解放軍(陸軍)は共産党独裁政権を護持し、国内不安を抑えてくれる「党の柱石」であり、党軍として優遇しながら党と軍は相互にもたれあってきた。全国津々浦々、部隊を駐屯させる7軍区は国境防衛を担うと同時に地方政府と連携しながら国内治安の維持の役割も果たしてきた。同時に軍部は武装集団として党と並ぶ強権力でもあって党を脅かす存在でもある。その軍閥的な7軍区を解体するなどで軍権を掌握していった。
軍事改革面からも7軍区を5個の戦区に改編し、統合作戦部隊とした。これは従来の海・空軍司令官や新設の陸軍司令官などから軍の指揮権を戦区司令官に移し、軍隊建設に専念させた。軍令と軍政の責任権限を分担させることで軍人が握ってきた権限を分割弱化する措置でもあった。
7軍区から5戦区に変えた軍事改革は機能するのか?
これからだ。仏は作ったが、魂がまだ入っているわけではない。軍種の壁を越えた統合作戦への道は遠い。
(聞き手=池永達夫)