中国の政治改革、原動力は金回りの悪化か 川島博之氏

危機のアジア 識者に聞く(5)

東京大学大学院准教授 川島博之氏(下)

川島博之氏 

中国の経済はある程度自由があってこそ活性化すると思うが、強権で縛るのは圧力釜の爆発力を高めるだけでは。

 長い目で見れば、中国がやっていることは何もいいことがない。ネットも自由に使えない。中国人留学生も親元とメールなどで連絡する時、自動的にチェックが入るので、気を付けている。

ネットで「ダライ・ラマ」と打っただけで検閲対象になる。

 「文革」「毛沢東」も駄目だ。

経済的ショックが政治改革を呼び込むことになるのだろうか。

 国営企業改革や共産党員が持っている特権を離さないと、次の発展ステージに進めない。しかし、改革しようと思っても、総論では強くなろうといいながら、自分の権益を離さないのが「赤い貴族」と化した共産党の特権階級だ。日本でもあった総論賛成、各論反対で、経済が成長しなくなる。

 そこで新しい思考で改革しようといった共産党改革派みたいなのが出てくる。結局、そういうことが始まるのは、金がうまく回らなくなった時だ。本格的な政治改革をもたらすのは、決して自由とか平等を尊ぶ政治理念や哲学ではない。

 習近平政権を支えてきたのは、都市戸籍を持って共産党に所属し、なおかつ国営企業などに務めていて、そこそこの資産を築いている人たちだ。

 そうした人々は自分たちを勝ち組だと思っていたが、所有するマンションの価値が下がり、息子を会社に入れようと思っても、就職さえもままならない。大学は出たけれど、いい就職先がないのが現状だ。

 それが心におりのように溜(た)まってくると、習氏の演説に拍手はしたものの、何か変えないといけない、これでいいのか、となってくる。1985年にゴルバチョフを出したソ連がそうだった。だから金が動機となって中国社会は大きく舵(かじ)が切られていく。

独裁国家は意外としぶとい。

 独裁政権というのは、道路を造ったり学校を造ったりするには効率のいい政権だ。民主化運動家が反対していたらうまくいかない。独裁国家の強みは開発独裁に転化していった時、初速スピードが早く、経済成長の初期段階ではうまくいく。

 だが、次に社会をより進化させていこうという時、独裁政権は極めて不適切だ。過去20年間、共産党主導のいけいけどんどんで高速鉄道や高速道路を整備し、工場を造った。それには共産党独裁政権が非常に向いていた。住民が文句を言えば、すぐに武装警官が口を封じた。

 ところが、社会を進化させようとなると、最初の強引な成長で取り残された人たちに目を向ける必要がある。それは民主主義でしかできない。

 20世紀になって独裁政権は滅びていった。ドイツのヒトラーやスペインのフランコ、中南米ではチリのピノチェトやアルゼンチンのペロンなどすべて滅びている。ソ連も崩壊した。

 壊れていないのは北朝鮮と中国ぐらいだ。北朝鮮は誰が見ても失敗した国だ。それに対して中国は、かなり成功したモデルといえる。

 だが、これからの10年を見ると、今までのようにはいかない。中国が高度成長したのは、ヒトラーの初期モデルを合理的に進めたにすぎないからだ。中国は大きく変動し、独裁体制ではうまくいかないから、ゴルバチョフ的人物が現れる可能性がある。

(聞き手=編集委員・池永達夫)