金沢ふるさと偉人館で自画像展「自分を見つめ、自分を描く」

子供たちの個性豊かな力作揃う、金沢市で開催

 水彩絵具やクレヨン、鉛筆、版画、さらにパソコンを使って描いた顔、顔、顔……。金沢市の金沢ふるさと偉人館で開催中の「自画像展-自分を見つめ、自分を描く-」だ。今回で10回を数え、館内には全作品が展示されている。どれも力作ぞろいだ。自分の顔をじっくりと眺めて、それを描くことはほとんどない。それだけに、自分自身を見つめるきっかけにもなっているようだ。(日下一彦)

審査基準は「一生懸命、自分を絞り出す」

全国的に極めてユニークな作品展に

金沢ふるさと偉人館で自画像展「自分を見つめ、自分を描く」

子や孫の力作に笑みがこぼれる=金沢市の金沢ふるさと偉人館で開催中の「第10回自画像展」

 同館1階フロアの壁や特設パネルには、子供たちが自由な作風で、思い思いに描いた自身の顔がズラリと並んでいる。画材はさまざまで、これだけ個性豊かな顔が並ぶと実に壮観だ。全国的にも極めてユニークな作品展となっている。今回は市内の保育園児から小中学生まで、昨年より120点多い1455点が寄せられた。

 同展の発案者は元館長の松田章一さんで、東京芸術大学で創設以来続いている卒業制作の自画像をヒントに「子供たちも自画像を描くことで、自分を見つめるきっかけになれば成長につながるのでは」との思いから始まった。

 展示は時計回りに年少、年中、年長組の順で、小学校低学年から高学年と続き、そして中学生の作品で構成されている。順に見ていくと、それぞれの年齢で線や色の使い方に特徴が表れている。また笑ったり泣いたり怒ったりの喜怒哀楽の表現の仕方も異なり、子供たちの成長過程が一目瞭然で、とても興味深い。

 年少児ではたどたどしい線で顔の輪郭を描いたり、目や鼻を書くので精いっぱいだが、一生懸命に取り組んだ様子が見えて微(ほほ)笑ましい。年中、年長組になると、顔の特徴や髪形などを上手に捉え、観察力が深まっている。年中組では、顔の表情がより詳細に描かれ、髪形も三つ編みや束ねた髪がはっきり描かれている。体の部位の特徴も表現され、耳の大きい児童はそれを巧みに描き、観察力が深まっている。

 中には画用紙を2枚縦につないで、そこに等身大に近い自身の姿を丁寧に描き込んだ“大作”も出展され、集中した様子が垣間見える。同時にそれを指導した美術担当者の力の入れようも伝わってくる。画材もクレヨンと墨を組み合わせるなど、それぞれの園の独自の取り組みも現れている。

 小学校の中・高学年になると、汗だくの表情を描いたり、大粒の涙を流している様子など、作風がますます多彩になっている。それらを一点一点じっくりと見ていくと、おとなしい性格が連想されたり、明朗活発な姿やちゃめっけたっぷりの気性などもうかがえ、これが自画像展の良さでもあるようだ。

 中学生の作品になると、美術部の生徒の作品が主なようだが、水彩や鉛筆でしっかりしたタッチで描き、鑑賞する人を魅了する。背景にも工夫が凝らされ、自分のお気に入りのゲームのストーリーを、丹念に描き込んだ作品も見られ、子供たちの豊かな才能に触れ、驚きと感動が込み上げてくる。

 展示作品には、赤いシールを貼った入賞作がある。金沢美術工芸大学の前田昌彦学長、金沢21世紀美術館の島敦彦館長、金沢市の野口弘教育長ら5人の審査員が、幼児・小学校・中学校の部門別に426点を選んだ。

 さらに「これは!」と各審査員が心引かれた作品を2点ずつ選び、特に優秀な10作品として、「審査員大賞」が展示ケースに公開され、来館者の心を“グッ”と引き寄せている。審査の尺度の一つとして、ある審査員は「上手下手ではなく、一生懸命、自分を絞り出す作業です。それがどこまで表現されているかを見させてもらいました」と説明している。

 週末になると、保護者や祖父母らが鑑賞に訪れ、わが子や孫の作品に目を細め、盛んにカメラに収めていた。年中組の母親は「園の先生のお話では、鏡を見てニコニコしながら描いていたそうです。お絵描きが大好きなので、とても良い思い出になります」と微笑んでいた。同展は今月21日(日)まで。