運動器症候群予防にビタミンK

東京都健康長寿医療センター研究所 井上聡氏

 老年学・老年医学公開講座(主催・東京都健康長寿医療センター)が、東京都北区王子の北とぴあ さくらホールでこのほど開かれた。「ビタミンKとロコモティブ症候群」と題して東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チーム研究部長の井上聡氏が語った。

週2、3回の納豆で補充は十分

運動器症候群予防にビタミンK

東京都健康長寿医療センター研究所 井上聡氏

 ロコモティブ(運動器)症候群は、骨粗鬆(そしょう)症による骨折、関節・軟骨の老化、加齢による筋肉量の減少などによって運動機能が障害され、歩行困難・寝たきりなど要介護につながる状態をいう。

 厚生労働省の高齢社会白書などによると、何歳まで生きられるかという「平均寿命」(男性80・21歳、女性86・61歳)と何歳まで健康に生きられるかという「健康寿命」(男性71・19歳、女性74・21歳)の約10年間の差は過去10年以上、縮まっていない。

運動器症候群予防にビタミンK

「ビタミンK」の新しい作用と疾患

 要介護状態になるのは、脳卒中、心臓病、認知症で徘徊(はいかい)などが多く、ロコモティブ症候群になる多くの原因が占めている。女性は骨折・転倒15%、関節疾患14%、高齢による虚弱15%、約半数が運動機能に関わる障害で健康寿命を損ねている。男性は、骨折転倒6%、関節疾患4・7%、高齢による虚弱11・3%、脳血管障害26・3%で約半数となっている。ロコモティブ症候群の簡易チェック法として、①片足で靴下がはけない②家の中でつまずく③階段の昇降に手すりを使う④家のやや重いものを運ぶことが困難⑤2㌔程度の買い物を持ち帰るのが困難⑥15分くらいの継続歩行が困難⑦横断歩道を青信号で渡り切れない――のうち一つでも当てはまれば要注意だ。

 ビタミンKが不足すると出血が止まらない。骨の健康にも役立つ、ビタミンK1を多く含む緑黄色野菜や微生物によりビタミンK2が合成される納豆など、食物からの摂取がよいとされる。納豆は週に2、3回食べるだけで、ビタミンK不足は解消される。また、納豆をよく食べる地域が骨折する人が少ない地域と重なっていることも分かってきた。

 ビタミンKの研究が進み、ロコモティブ症候群の抑制だけでなく、加齢による認知症、がん発生、動脈硬化などの抑制や精子の健康維持にも関わりがあるという報告もなされている。