道徳教科化と「孝」の教育


 年の初め、子供が中学校で使っている教科書を開いてみた。その中に自治体が作成した道徳の副読本があった。身近な題材の読み物が20編ほど載っている。どれも日常の何気ない話だが、そこから大切な価値をどのように子供たちに伝えるか、教える先生の力も大きいと考えさせられた。

 今春からは道徳が教科として正式にスタートする。新しく教科書も使われるようになる。どんな授業になるのか、保護者として期待したいところだ。

 ところで、長くソウルに滞在していた友人の研究者に聞いた話では、韓国でも近年、道徳、人格教育に力を入れるようになっているという。モラルの低下、人間性の喪失が社会的問題になっているためだ。

 その中で、一部の自治体が特に力を入れているのが「孝」の教育だという。

 韓国では、儒教の伝統から親孝行の精神が重視されてきたが、現代のあらゆる問題の根本には家庭崩壊があるという認識から、解決のためには孝の精神が必要と考えられたというのである。

 具体的には、親に対するあいさつや言葉遣いから始まり、宗教の孝の思想を学んだり、親に対する想(おも)いを自分の中で振り返るような時間もある。「孝行の日」を設けて、親子一緒に老人ホームを慰問するような活動も行っているという。

 日本では孝行という言葉自体、あまり聞かれなくなっている。逆に「毒親」などという言葉さえメディアに登場している。親子、家庭内の不和が重大な問題につながることも多い。

 道徳の新しい学習指導要領には、「家族への感謝」や「父母・祖父母への敬愛」が書かれているが、孝の精神について改めて考えてみることは、今後の道徳教育にとって大切なことかもしれない。もちろん子供だけでなく、親も努力して変わる必要がある。(誠)