建国時から延々続く移民論争

米コラムニスト ジョージ・ウィル

国境警備めぐり激しい議論
不法移民一斉取り締まりも

ジョージ・ウィル

 1970年、第1回合衆国議会の中の誰よりも、その時代の誰よりも賢明で優れた知性を持っていたジェームズ・マディソンが、下院で移民問題について演説した。「あらゆる手を尽くして、世界の優秀な人材がここに来て、私たちとともに定住したくなるようにすべきであることは言うまでもない」。現在の第115回議会でも恐らく、米国の初期の頃から延々と議論され続けてきたこの問題が話し合われる。マディソンはその最初だ。それ以来、ここに来るべき優秀な人材をどのような基準で選ぶべきかが話し合われてきた。

 この代名詞「私たち」の中には約8000万人の移民とその子供も含まれる。その中には1100万人以上の不法移民も含まれる。トマス・ジェファーソンは著書「ヴァジニア覚え書」で、欧州から「子供の頃に(君主制の論理を)教え込まれた」移民が大量に押し寄せ、米国を「不均一で、調和もまとまりもない集団」にしてしまうのではないかと懸念していたことを知ることは、移民にとって楽しいことだろう。

 1世紀後、「つまらない世界主義」を強く嫌っていたセオドア・ルーズベルトは、「アングロサクソン」と、詩人ラドヤード・キプリングが「法を持たない劣等な種族」と呼んだ人々の間の衝突を歓迎した。キプリングは、ルーズベルトの友人であり同志だ。ルーズベルトは、米国が「さまざまな言語が飛び交う下宿屋」になることを心配し、米国最初の移民制限の法制化を支持、中国人を排斥する法律が通過した。中国人労働者が米国人の賃金を引き下げ、「白人にとって有害」だと考えたからだ。

◇移民制限法が成立

 1902年にウッドロー・ウィルソンは、大学教授時代に書いた「アメリカ人の歴史」で、「欧州北部のしっかり根の張った民族」つまりノルウェー人と、「技術も熱意も、学ぼうという意欲もない」欧州の南部と東部の人々とを対比させている。プリンストン大学の心理学者によると、第1次大戦中に米陸軍が集めたデータは「北欧人の地中海・アルペン・黒人グループへの知的優位」を示しているという。進歩的経済学者リチャード・T・エリーは、ウィスコンシン大学でほとんどの学術活動を行ったが、最初に教鞭を執ったジョンズ・ホプキンス大学の生徒の中にウッドロー・ウィルソンがいた。エリーは、一覧を作って家畜を管理するように、国家が民族を管理できるようになると、この陸軍のデータを高く評価した。1924年に連邦議会は厳しい移民制限法を通過させた。「アジア移民禁止地帯」からの移民を禁止する法律だ。

 これについては、プリンストン大学の経済学者トーマス・C・レナードの「リベラルでない改革者-進歩的時代の民族、優生学、米国経済」、イェール・ロースクールのピーター・H・シャック名誉教授の「ワン・ネーション・アンディサイディッド」で知ることができる。シャック氏は、「米移民の中で最も残酷な事例として、米国人家庭が受け入れを強く望んだにもかかわらず、ナチス・ドイツから2万人の子供を救出する法案を議会が1939年に否決した例が考えられる。受け入れるとドイツへの割り当てを超えてしまうというのがその理由だった」と記している。

 今後は、国境警備の問題、不法移民は滞在を続けるべきかをめぐって激しい議論が行われる。その熱の入れようは異様なほどだ。

◇不法移民数は減少

 不法移民の42%は、有効なビザを持って、ほとんどが空港から入国し、ビザが失効したオーバーステイであり、国境の問題とは関係ない。国境警備費用は1990年代に4倍になり、2000年代には3倍になった。メキシコからの移民数はこの10年間、実質減であり、どうしても壁を建設したいというのなら、3200キロの米メキシコ国境ではなく、870キロのメキシコ・グアテマラ国境にすべきだ。

 不法移民は2007年の1220万人から1100万人超に減少、その58%は、少なくとも10年間、米国に滞在している。31%は自宅を所有し、33%は米国で生まれ、米国籍を持つ子供がいる。生活はコミュニティーの中にしっかりと根付き、普通の国ならこれらの移民を警察を使って力ずくで排除することに躊躇(ちゅうちょ)するだろう。これらの移民にとっては、帰国ではない。ここが母国だからだ。

 米同時多発テロ後、移民への対応は、テロ対策と絡められるようになった。そのため、エコノミスト誌が指摘したように、「大部分がサウジアラビア人だったテロリストらが犯した大量殺人によって、メキシコ人塗装業者の国外退去に、ほとんど無制限に予算がつぎ込まれるようになった」。米移民税関執行局(ICE)は今月、17州のセブン・イレブン98店舗で、取り締まりを行い、21人を逮捕した。4・5店舗に1人の割合だ。ローマは1日にして成らず。一度の一斉取り締まりで、スラーピーやビッグガルプなどの飲料の販売を米国人だけの仕事にすることを政府に期待するのは合理的とは言えない。

(1月20日)