気候変動「存亡の危機」ではない
米コラムニスト ジョージ・ウィル
極端な変動シナリオに反論
信頼性低い国連報告
メディアは気候変動に関して強い確信を持っているようだ。今回の国連の報告も同様だった。ところが、気候変動に立ち向かおうとする今日の呼び掛けに確かな証拠はそれほどない。
昨年、CNNはこう発表した。「海の温暖化は、1秒間に5個の広島型原爆が投下されたのと同じ速度で進行している」。確かにそうだ。しかし、「地球は1秒間に広島型原爆2000個分の太陽光を吸収し(そして同じ量の熱エネルギーを放射する)」。この文章は、物理学者のスティーブン・クーニン氏の著書「未解決―気候科学は何を教え、何を教えていないか。なぜそれが重要なのか」(仮訳)から引用したものだ。
◇増えていない竜巻
異常気象は気候変動の結果と日常的に報道されていることについてクーニン氏は、「気候は天候ではない。何十年にもわたる天候の平均値だ」と警告する。言うまでもなく、気候は変化しているし(地球の45億年の歴史の中で、かつてないほど変化している)、地球上の80億人の人々の二酸化炭素排出量は気候に影響を与えており、その影響は、行動の変化を促す対策や具体的な対応によって緩和されるべきである。
大気中の二酸化炭素濃度上昇のほぼすべてを人間の活動が占めているが、科学では、例えば小氷期(1450年ごろ~1850年ごろ)や1940~80年の世界的な冷え込みなどの気候変動に対する人間の影響と自然の影響を区別することは難しい。クーニン氏は国連の報告書を引用して、「人間の影響は現在、気候システムを流れるエネルギーのわずか1%にすぎない」と述べているが、メディアの「報道」によれば、ハリケーンの数と強さが増加しているという。クーニン氏は、「過去100年間、人間はハリケーンに検出可能なほどの影響を与えていない」と述べている。気象レーダーの性能向上により、弱い竜巻も検出されるようになったため、報告される竜巻の数が増えている。しかし、クーニン氏によれば、米海洋大気庁(NOAA)のデータによれば、重要な竜巻の数はほとんど変化しておらず、最も強い竜巻の頻度も低くなっているという。
現在、海面は年に数㍉ずつ上昇しているが、海面上昇は2万年前から続いている。クーニン氏は、氷河の融解に起因する海面上昇の割合は「1900年以降わずかに減少し、現在は50年前と同じ」という最近の研究結果を引用している。グリーンランドと南極の氷床が溶けても、ここ数十年の海面上昇は70年前と変わらないという。米全土の平均気温は1960年からほとんど変わっておらず、1900年とほぼ同じだ。
世界保健機関(WHO)の事務局長は2019年に、米誌「フォーリン・アフェアーズ」で「気候変動はすでに私たちを殺している」と主張し、波紋を呼んだ。クーニン氏は、「驚くべきことに、この記事は、環境や家庭の大気汚染による死亡(全原因による死亡の約8分の1を引き起こす)と、人為的な気候変動による死亡を混同している」と述べている。WHOによると、貧困国における室内の空気汚染は、そのほとんどが薪や動物の排泄(はいせつ)物、農業廃棄物を使った調理の結果であり、これは世界で最も深刻な環境問題だという。しかし、これは気候変動の結果ではなく、貧困の結果であり、気候変動政策によって化石燃料が入手しにくくなり、エネルギーが高価になれば、貧困はさらに深刻になる。
◇途上国で排出量増加
中国とインドで石炭火力発電所が新設され、排出量はそれぞれ2倍、3倍になるという。クーニン氏によれば、「発展途上国」の人口は「先進国」の5倍であり、発展途上国の累積二酸化炭素排出量は、今世紀中に先進国よりも多くなるという。先進国が10%削減しても(「15年間でほとんど削減できなかった」)、発展途上国の成長による4年分の排出量で相殺されることになる。
クーニン氏は、今回の国連の報告では、100年以上にわたるハリケーンの特性のほとんどの傾向の信頼性は低く、大西洋のハリケーンに自然の変動以上のものがあるかどうかは不確かで、報告で示されている極端な排出シナリオはあり得ないとしている。これは、4000ページに及ぶ国連の調査結果をメディアが短時間で分析しても把握し切れない内容だ。排出シナリオの中には、2100年までにセ氏1・5~2・7度の温暖化というもっともらしい予測をしているものもある。
しかし、その頃には、世界の国内総生産(GDP)は人口に比べて何倍も成長し、1人当たりの世界の富は大幅に増加しているはずだ。以前の国連報告書では、世界の気温が3度上昇した場合、2100年までに世界経済に3%もの悪影響を及ぼす可能性があるとされていた。クーニン氏は言う。年間2%と控えめの成長を仮定すると、現在約80兆㌦の世界経済は、2100年には約400兆㌦に成長するが、気候変動の影響で388兆㌦にまで減少する。「存亡の危機」とまではいかない。