カンボジア、三輪タクシーの嘆き節

ASEANの夜明け アジアハイウエー7000キロルポ(9)

 ベトナム最大の商都ホーチミンから午前9時、国際バスは隣国カンボジアに向かって出発した。料金は12㌦だ。
 国境のイミグレで1時間半ほど時間は取られたが、6時間ほどでプノンペンに到着する。この早さを実現したのは昨年4月、カンボジア南東部のメコン川に架かる橋が日本の支援で完成したからだ。鳥が翼を広げるような格好から、日本語で「つばさ橋」と命名された。これで、プノンペン経由でホーチミンからバンコクの約900㌔が、「南部回廊」としてつながった。

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 それまでフェリーでメコン川を越える必要があって、最大待ち時間7時間といった混雑に手間取り、大体、プノンペンに到着するのは夜の帳(とばり)が下りてからのことになったものだ。それがまだ陽(ひ)が高い午後3時前にはプノンペン到着となる。

 なお、日本が「南部回廊」や「東西回廊」建設支援に力を入れたのは、域内を「単一生産基地」にしてインドシナ半島東のホーチミンやダナンから東アジアや北米へ、西のミャンマー・ダウェーからインドや中東へと輸出にドライブをかける流通インフラを整備する必要があったからだ。インドシナ地域が本当の活力を得るには、域内の「単一生産基地」を実現した上で、同時に世界市場に向けた「輸出基地」が機能しなければならない。

 さて、プノンペンに入るや否や隣にいた日本人旅行者I氏が「ここはカンボジアじゃなか!中国ばい」と叫んだ。彼は九州男児だ。

 I氏の目に飛び込んできたのは、プノンペン市内を流している三輪タクシーだった。オートバイに4人乗りの荷台をつけた三輪タクシーは、雲南省や貴州省など中国のローカル地域で走っている簡易タクシーそのものだった。店の看板もクメール語だけでなく中国語も目立つ。マンションやショッピングモールなどの建築現場には中国人労働者が目白押しだ。

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プノンペン市内の三輪タクシー

 大衆レストランでたまたま三輪タクシーのドライバー・チュアン・ノル氏(41)と隣り合わせになった。プノンペン市内を走っている三輪タクシードライバーは、オーナーから1日5㌦で借り受けている。ノル氏のオーナーも、中国との強いパイプを武器にビジネスを拡大している華人資産家だ。だがその恩恵は、末端までは行き届かない。

 ノル氏は「1日の売り上げは約25㌦、ガソリン代5㌦を差し引くと、1日の利益は15㌦だけだ」と言う。

 ノル氏は小学生の娘3人を抱え、3年前まで450ccで20㌦の稼ぎになる売血で、その日をやり繰りするようなこともあった。

 カンボジアでは公立小学校や中学校は義務教育で無料のはずだが、「実態は毎日、教師は生徒から2000リエル(約0・5㌦)を徴収する」(ノル氏)と言う。

 カンボジアの学校は2部制で、生徒は午前か午後のどちらかだけ授業を受けるのが通常だ。ただ生徒の9割以上が午前中に学校の授業に出ている。そのうち8割は午後に再び教室に戻り、同じ教師から有料の塾で補講を受けている。しかし、補講を受けられない貧しい家庭の生徒との間で教育機会や学力の格差が広がっている。そうした底辺の生徒は、次第に授業に付いていけなくなりドロップアウトするケースも少なくない。

(池永達夫、写真も)