ベトナム、ニャチャンビーチの悲哀
ASEANの夜明け アジアハイウエー7000キロルポ(8)
国境のラオバオで宿を取った。ベトナムのホテルはどんな安宿でも、タイやラオス、それにマレーシアのように前金ではない。だがチェックイン時にパスポートをフロントに預けないといけない。これだとホテル側は宿賃を取り損ねることはないし、備品の毀損(きそん)があった場合でも賠償請求のバーゲニングパワーを発揮できる。
ただ一度、チェックアウト時にパスポートを返してもらうのを忘れ、大慌てして引き返したことがある。使う側とすれば、やはり前払いながらパスポートを預ける必要がない方が気が楽だ。なお、カンボジアは後払いでもOKで、しかもパスポートを預ける必要はない。
この支払いの違いだけでも、アセアンの国々の商習慣や旅人への信用度は国によってそれぞれだ。
さて、べトナム南部のニャチャンは、私の知る限りアセアンで一番のビーチだ。長さ5㌔の白いビーチは、旧宗主国のフランスや欧米からの観光客でにぎわう。ロシア人も結構、目立つ。ベトナム戦争時から支援を受けてきたロシアとの因縁は深く、このビーチの魅力はロシアにまで知れ渡っているのだろう。
最初にニャチャンを訪問したのは20年前のことだった。この時、ホテルはせいぜい10階建てだったが、今では40階建ての高層ホテルが建つようになった。さながらハワイのワイキキビーチだ。ここでは高層階から眺める南シナ海の朝日が人気だ。
無論、波は結構荒い日が多い。波打ち際の高波さえ乗り越えれば、ゆったり泳げるが手際よくこれが処理できないと、ゴロゴロ、浜辺にただ転がされるだけだ。
西洋人が勢いよく高波に飛び込んで、パンツがすっぽり脱げてしまった。それでも裸のまま無邪気に遊んでいる。
当初、港町ニャチャンにホテルを建てたのは、サイドビジネスとしてマグロ漁などで資産を築いた漁師たちだった。今では「中国のハワイ」として知られる海南島と競合するような観光地にまで発展、こちらの方が本業となっている。
ただ、早朝のビーチでこそベトナム人観光客が遊ぶことはあっても、日中は欧米系の観光客で埋め尽くされる。ここはベトナムであってベトナムではない租界地のようでもある。
ベトナム人はというと、使用料1台3㌦のビーチチェアを運んだり、携帯用火鉢でスルメを炭火であぶり、ビールのつまみを商ったりしている。いまだ、植民地時代を彷彿させるような光景だ。しかも、あぶったスルメや貝など炭火焼きの海鮮に手を出しているのは欧米人だけでなく、中国人も目立つようになった。陸路でも来れるしホテルが海南島より格安という事情もあって、中国人のベトナム観光人気度は高い。
ホーチミン市のベンタイン市場で目立つのは、中国人向けのコーナーができたことだ。一時、はやったネイルサロンは下火になっているものの、1㌔350万ドン(約17万5000円)の乾燥ナマコや乾燥アワビ、さらに高額なツバメの巣や鱶鰭(ふかひれ)といったものが人気商品となっている。街中には毛筆を店頭に掲げた土産物屋もある。
中国は国策としてASEANへの観光を国民に勧めている。
(池永達夫、写真も)