ミャンマー、旅は時にオチがつく
ASEANの夜明け アジアハイウエー7000キロルポ(3)
マンダレーから仏教遺跡として名高いバガンを目指そうとバスを探した。こうした時は、バスターミナルが近くにありそうでも、むやみやたらに歩いて探してはいけない。結構、とんでもないところからバスが出たりするからだ。言葉ができるドライバーをまず見つけ、タクシーで行くに限る。タクシードライバーは通訳であり、貴重なガイドでもある。
タクシーはスムースにバス停に横付けした。バスと言っても12人乗りのハイエースだ。チケットは26㌦だという。距離からすると少々高いが、そんなものかと思って購入。荷物はすぐさまハイエースの屋根に縛り付けられた。
同じハイエースに乗り合わせることになった乗客と世間話をしている最中、とんでもない間違いに気付いた。ハイエースが向かおうとしているのは、バガンではなくパガンだった。しかもパガンは北部ミッチーナを越えた山岳地帯で、外国人立ち入り禁止地域だ。
すぐさま「キャンセル!」の雄たけびを上げると、縛り付けられたバックパックを外しにかかる。事情を知った同乗者らは、腹を抱えて大笑いしている。「パガンとバカンを間違えるバカ(ン)は今まで聞いたことがないぞ」と言った笑い方だ。
コケにはされたが、おかげでミャンマーの時代の変化を知ることができた。実は2年前、同じバス停から北部のミッチーナを目指したことがあった。この時、外国人にはバスチケットを売ることはできないと拒否された経緯があるからだ。わずか2年のうちに、この規制は解除されたのみか、外国人立ち入り禁止地域までのバスチケットを売るようになっているとは驚きだった。ただこのバスに乗れたとしても、許可証がない外国人はチェックポイントで降ろされる運命にあるのは自明だが、ネ・ウィン政権下で鎖国政策を取ったミャンマーが、対外的な窓を大きく広げつつある趨勢(すうせい)を感じ取れたのは「ケガの功名」ならぬ「恥の功名」だ。
さらにこのバス会社は驚きの対応をした。パガン行きはキャンセルだから、26㌦のチケットを現金で返してもらおうとしたら、バカンまで「ハイヤー」を出すというのだ。窓口の係りがスマートフォンで電話すると、すぐに「タクシー」はやって来た。結局、他に1人同乗者はいたものの、バカンには「白タク」で行くことになった。少々、ぼられたには違いないのだろうが、捕まえた顧客を離しはしないたくましい商魂には脱帽ものだ。純朴なミャンマー人だが、しっかりビジネス社会に溶け込み始めている。
なおこの国には「赤と緑と黒を制する者がビルマを制する」という言葉がある。赤はルビー、緑はヒスイ、黒はアヘンを指す。
ちなみにマンダレーの特産品は、その一つのヒスイだ。そのヒスイ市場が、このところ値段が下がって往年の賑(にぎ)わいがなくなっている。ラーショー出身の宝石業者ダウ・カリーン氏は「最大の顧客である中国業者の買い控えがあって、販売価格は前年比で25%近く下落、改善の兆しも現れていない」とこぼす。
これまで値が張るヒスイの高級品不足や、主要産地である北部カチン州での政情不安が価格低迷の最大原因とみられていたが、長引く中国経済の落ち込みによる需要低迷こそが最大の理由だというのだ。
カリーン氏に「最高級のヒスイの産地はどこ?」と何気なく聞いてみた。
「そりゃ、パガンだろうさ」
こともなげにカリーン氏は答えた。旅には時に、こうしたオチがつくことがある。
(池永達夫、写真も)