ラオス、中越の狭間で揺れる政治
ASEANの夜明け アジアハイウエー7000キロルポ(6)
大型ショッピングモール「ビエンチャン・センター」の前を、消防自動車がサイレンを鳴らしながら走り去っていく。赤い車体には誰の目にもつくように「中国雲南省寄贈」と書かれている。中国に「陰徳」という文字はないらしく、こうした演出ぶりばかりが目立つ。
国立博物館前にある文化宮も中国が寄贈する格好で建築した。こうして国民の目に「中国」が刻印されるよう一工夫されている。
ビエンチャンの繁華街にあったラオスジャーナリスト協会を訪問した。1階の奥に記者仲間と一緒にいたのが詩人記者のセンフーサ氏だった。日本では詩人のステータスは高くないが、東南アジアでは中央アジアほどではないにしても、ステータスを示す名称の一つだ。
そのセンフーサ氏に「ラオスは建国の経緯からベトナムの影響が強いはずだが、中国の政治的影響の強さと比べるとどうか」尋ねた。
センフーサ氏は「30年前、ラオスに対するベトナムの影響力は圧倒していた。それが15年前、パリティーになった。そして今、中国の政治的影響力はベトナムを圧倒している」と明快に答えてくれた。まあ、ジャーナリスト協会の玄関に中国舞踊団の広告が掲載されていたので、大概の予測はついていたのだが。
それにしても、一方的にラオスが中国に取り込まれてしまったと断じるのは尚早に過ぎる。ラオスの一党独裁政権を担うラオス人民革命党は1月下旬、5年に1度の党大会で新指導部を発足させた。最高指導者の党書記長にはベトナム寄りとして知られるブンニャン国家副主席(78)が選出され、旧指導部きっての親中派チュンマリ党書記兼国家主席は、同じく親中派のソムサワット副首相とともに退任となった。中国語が堪能なソムサワット氏は外相時代、中国企業の投資をラオスに呼び込んだ立役者であると同時に、中国の援助を取り付け同国初の衛星打ち上げや、縦断鉄道プロジェクトなど中国傾斜の立役者でもあった。それらをばっさり切り捨てるような人事だ。
小舟はバランスを間違えると転覆する。小さな国も同じだ。ラオスは中国に傾斜し過ぎた国家の舵(かじ)を復元しようとバランスを取った。
とりわけ今年はラオスが東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国だ。域内の調整役を担う上でも、ベトナムとの関係悪化を排除しておく必要に迫られた模様だ。
少なくとも4年前の議長国カンボジアが、南シナ海の南沙、西沙問題でフィリピンやベトナムの対中批判を封印し、中国の代理人となったような二の舞いを演じれば、ラオスはASEAN内で議長国としての求心力を失うリスクが高まる。
2月下旬に開催されたASEAN外相会議では、議長国ラオスにしては珍しく中国の軍事的脅威を示唆する議長声明を読み上げた。この議長声明文には「南シナ海での航行と航空の自由の重要性について確認する」という文言が入っていた。
だが、中国はラオスにとってナンバーワンの投資国家だ。1989年から2014年までの四半世紀で中国は、累計54億㌦の投資実績を持つ。2位は隣国タイの45億㌦。3位がベトナムで34億㌦。日本は6位の4億4000万㌦でしかない。これだけをみても、ラオスがいかに中国に経済を依存しているかが分かる。
(池永達夫、写真も)