ラオス、中国の南下鉄路完結へ
ASEANの夜明け アジアハイウエー7000キロルポ(4)
ラオスの首都ビエンチャンを訪問するのは3年ぶりだ。人口70万人の小都市ながら、時代の大波に洗われている。
まず目に付くのはATMだ。携帯の普及で公衆電話が消え、その代わりといっていいほど、ATMが所狭しと居並ぶ。多いところは1メートル間隔で、屋台のようにずらりと並ぶところもある。物流よりもこうした金融事情の変化が激しい。
何より特異なのは中国の進出振りだ。町中が建築現場のようなビエンチャンでは、あちこちで中国人ワーカーが働いている。中国が進出する場合、ワーカーから建築資材までごっそり中国から持ち込むことで知られる。現地で消費するのは「食料品と売春婦だけ」といった声も聞かれるほどだ。その分、現地の経済波及効果は薄い。
昨年3月にはラオスで大型ショッピングモール「ビエンチャン・センター」がオープンした。中国雲南省の建築会社・雲南建工が建築したものだ。
それまでビエンチャン1のマーケットだったタラ-トサオがかすんでしまうほどの近代設備だ。まだエスカレーターに慣れていなくて、戸惑っている女性が目に付く。最上階にはシネコンがあり、2月1日から「スター・ウオーズ/フォースの覚醒」が上映されている。日本より一カ月余の遅れだが、こちらでは旧正月を祝うので、ラオスの正月映画といったところだ。
タイとラオスを隔てるメコン川に豪州がつくった第1友好橋が架かる。中央には線路が敷かれバンコクを出発した国際列車は、この橋を渡り終点のビエンチャンに到着する。ラオスに線路が敷かれているのは、この橋からビエンチャン駅までのわずか2キロにすぎない。ラオスはASEANの中でも珍しく鉄道がない国だ。
だがASEAN南下策を国策とする中国は、札束外交でラオスを説き伏せ、今年から鉄道敷設工事が始まる。雲南省の昆明からボーテンを経由してビエンチャンまでの鉄道が2020年までに完成する。これが完成すれば北京とシンガポールが鉄道で結ばれることになる。ラオスという鉄道のミッシングリングがつながることでレールの南下政策は完結する計算だ。
ただ、この鉄道インフラ整備に向けて中国は7400億円の資本を投じることになる。中国の目的は、鉄やセメントなどの過剰在庫のはけ口としたり、流通回廊としてインフラ整備だけではない。
ラオス国立大学で2年間、教鞭(きょうべん)を執っていた増山克巳氏(63)は「中国は幅5キロに及ぶ鉄道沿線の鉱山採掘権をラオス政府から得ており、それに成功すれば莫大(ばくだい)な見返りを得ることができる」と内幕を暴露した。
中国がタイに抜ける道路を求めて、ラオスに国道3号線を作った時、山があってもブルトーザーで切り崩し、最短距離を走れるよう直線的な道路建設が目立った。しかし、今回は少々、状況が異なる可能性がある。
いみじくもラオス人タクシードライバーが言った「中国は衛星などを使って資源の目星をつけ、その資源を採掘できるように迂回(うかい)するかも」との冗談交じりの皮肉は意外と的を得ているかもしれない。
現在、ラオス最大の稼ぎ頭は世界最大規模の鉱床を持つボーキサイトや金などを採掘する鉱山だ。次が観光産業、3番目が水力発電による電力輸出だ。そのラオス最大のビジネス資源である鉱山開発に中国は食指を動かそうとしている。
(池永達夫、写真も)