ロシアのクリミア編入から2年 露国民の併合への熱狂冷める
経済制裁が市民生活に影響
2014年3月18日に、ロシアがウクライ南部クリミア半島を編入する条約を調印してから2年が過ぎた。ロシア政府はメディアなどを通じ「クリミアはロシアのもの」とのプロパガンダを継続しているが、欧米の経済制裁の影響が市民生活にも影響を及ぼすにつれ、ロシア住民の心境に変化も生じている。(モスクワ支局)
クリミア住民の債務返済問題も
モスクワのクレムリンに隣接したワシリー坂で3月18日、クリミア編入2周年を祝う集会・コンサートが大々的に行われた。約1万5000人が集まったこの集会には「われわれは共にある」「クリミアはわれわれのもの」などの横断幕が掲げられ、登壇者からは愛国的な発言が相次いだ。同様の集会はロシア各地で行われた。
クリミアの編入から2年がたち、ロシア人の生活にどのような影響があったのだろうか。
ロシア人がクリミアに行くことに関しては、編入以前と何も違いはない。当時からビザを取得する必要はなく、ロシアの通貨ルーブルが通用し、ロシア語が通じた。変わったことと言えば、ホテル代が高くなったことぐらいだ。
しかし、ロシアの人々の心境には、大きな変化があった。ソ連崩壊により自尊心・愛国心が音を立てて崩れたロシアの人々にとって、クリミア編入は、かつての大国―偉大なロシアを取り戻す象徴となった出来事だった。クリミア編入を祝い、多くの人々が、第二次大戦でのナチス・ドイツとの戦いの勝利を象徴する「ゲオルギーのリボン」を身に着けたのもそのためだ。
しかし、熱狂に包まれたこの多くの人々は、後に、自分たちがどのような代償を払うことになるのかなど、考えもしなかった。
ロシアのメディアは、ロシアのクリミア編入を正当化するプロパガンダを大量に流し続け、国民の愛国心を鼓舞している。「クリミアは歴史的に常にロシアのものであり、ロシア人は2014年3月、勇気をもって立ち上がり、自らの領土を取り戻した」というものだ。
ちなみに、ロシアとウクライナの間で締結され、1999年に発効した友好協力条約については、完全に忘れてしまっているようだ。ウクライナの領土保全、両国の国境不可侵を確約したこの条約は、 エリツィン元大統領が署名し、ロシアの上下院で批准されたもので、ロシアが公式に同条約を破棄したことはない。
欧米による経済制裁が始まっても、それが実際に市民生活に影響を及ぼすまでタイムラグがあった。国際的な原油価格の低迷を受けたロシアの景気後退に、経済制裁が追い打ちをかけルーブルは暴落。物価は高騰し、外貨建てで住宅ローンを組んだ人々は生活そのものが破綻した。
少しずつ熱狂が冷める中でロシア人が気づき始めたのは、同じスラヴ民族の隣国であるウクライナを敵に回してしまったということだった。親戚や知り合いも多く、経済だけでなく、文化や芸術、科学などさまざまな分野で築いてきた協力関係を、すべて失ってしまった。
さらに、ロシアが国際社会で孤立してしまったことも、人々は次第に認識し始めた。米国のパワー国連大使による次のビデオメッセージが、ロシアの人々に少なくない影響を与えている。「ロシアにより偽造されたクリミアの住民投票の結果を、米国が認めることは決してない。私たちは2年前、100を超える国々と共に、クリミアの住民投票は偽物であり、ロシアによる併合の試みが国連に認められることはないと明確に示した」
ロシアでは、クリミア住民投票の直前に、ロシア側がクリミアの住人に約束した内容についての報告書がマスコミに暴露され、問題となっている。それは「クリミアがロシア領になれば、ウクライナの銀行からお金を借りているクリミアの人々は、それを返済しなくてもいい」という内容である。
専門家の分析では、この約束により、クリミア住民の約30%の人々が併合に賛成票を投じたとされている。
ロシアがクリミアを編入した後も、借金が約束通り帳消しになるのか、との問題はくすぶり続けていた。クリミアのアクセノフ首長は「ウクライナの銀行が、クリミアの預金者に対する義務を果たしていないのだから、借金も返さなくていい」と何度も語っている。 しかし、この発言が法に基づいているのかは不明だ。ロシアの幾つかの金融機関が、ウクライナの銀行から債権を買い取っており、クリミアの住民の間には不安が広がりつつある。クリミアのロシア系住民の間でも、併合への熱狂は冷めつつある。
ラブロフ外相はモスコフスキー・コムソモーレッツ紙のインタビューで、次のように語っている。
「外交は第一に、人々の良い暮らしを実現するためにあるべきであると、多くの人々が語っている。私もそれに賛成だ。しかし、ロシア人にはアイデンティティー、すなわち国が形成される千年以上の歴史や、民族の誇りという意識もある」
クリミア併合の熱狂が冷め、人々が現実を直視し出していることを、ロシア政府も認識しているようだ。