ラオス、首都のゴールドラッシュ

ASEANの夜明け アジアハイウエー7000キロルポ(5)

 ビエンチャンの土を初めて踏んだのは、メコン川に橋も架かっていなかった四半世紀前のことだ。赤味噌(みそ)色のメコン川は、タイのノンカイから小船で渡った。国立銀行の前には牛が寝そべっていたし、鶏は放し飼いだ。

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 一国の首都らしからぬ田舎くささに心引かれた。学生時代、県庁の隣が田んぼだった山口市を旅した際の驚きに似ていた。

 アジアで一番静かな町だったそのビエンチャンが建設ラッシュに沸いている。

 ビエンチャンの大型ショッピングモール「ビエンチャン・センター」に併設する格好で雲南建工のビルが建っている。

 ビエンチャン・センター建築を担当した雲南建工は、さらにビッグプロジェクトとして隣接する世界貿易センタービル(WTC)を請け負っている。その規模はビエンチャン・センターの約10倍と壮大だ。凱旋(がいせん)門から歩いて20分ほどの場所に、商業ビルや五つ星ホテルを含むコンプレックスビルを建設中だ。完成の暁には、凱旋門に代わる首都のランドマークになる。その他、20カ所でショッピングモールが建設される。

 こうした建設ラッシュを後押しするのは、好調な経済だ。ラオスの国内総生産(GDP)は2006年以後、7、8%の成長を維持し、ここ10年で2倍になった。

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増山克巳氏

 日本でホテル勤務経験がある増山克巳氏(63)は、2年間、ラオス国立大学で観光学を教えた。それが縁となって現在、ラオス第2の都市サバナケットで日本料理店カフェ・チャイデイーの店長をしている。

 そのサバナケットは、東西回廊の戦略的要衝として注目され、近郊の工業団地にはニコンレンズや車の椅子のカバーを製造するトヨタ縫製工場、それにアデランスなども入居している。

 増山氏は「ラオス人は手先が器用だし真面目だから、緻密さや根気強さが問われる作業にはうってつけだ」という。

 「それに」と増山氏は言葉をつないだ。「タイ人は慣れてくると、すぐ新しいことをやりたがるが、ラオス人は純朴でこつこつ同じ仕事をこなせるし、技術を積み上げていける」と、そのプラス面を指摘する。サバナケット工場を稼働させたカツラメーカーのアデランスは、人件費はタイの約3分の1に抑えられたのみか、ラオス人1人当たりの生産量はタイ、フィリピン工場を抜いてトップに浮上している。

 ベトナムは「中国+1」、ラオスは「タイ+1」で脚光を浴びている

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いつもにぎわっているビエンチャンの金行

 好景気を反映してかビエンチャンで一番のにぎわいを見せているのが、タラートサオの2階にある金行街だ。東南アジアで財産の象徴といったら何といってもゴールドだ。金行とはそのゴールドを売るショップだ。その金を求めて砂糖に群がる蟻(あり)のように女性客が群がっている。

 そうした喧騒(けんそう)の町に豹変(ひょうへん)したビエンチャンながら、朝5時には別の顔ものぞかせる。黄色い袈裟(けさ)を着た僧侶が托鉢(たくはつ)に出る時間だ。ビエンチャンの2月というと、朝5時はまだ夜明け前だ。それでも町の人々は喜捨をしようと蒸したもち米や総菜を準備して、家の前にござを敷き、僧侶を待ち受けている。

 履物をござの後ろにそろえて座った主婦らが、裸足の僧侶に手を合わせて喜捨を差し出す。僧侶はそのたびに短いお経を上げる。月に照らされながら、ビエンチャンは祈りから一日が始まる。この町で何百年と続いてきた伝統だ。

(池永達夫、写真も)