内陸国パラグアイの挑戦 「魚の養殖」で持続可能な開発目指す

 南米の内陸国、パラグアイが養殖を通じて持続可能な開発を目指している。台湾の大学や日本からの技術協力を受けながら、養殖事業のさらなる拡大を模索している。(サンパウロ・綾村 悟)

新たな食文化浸透に取り組む

意義深い極僻地での日本人の成功

 パラグアイは、南米有数の牧畜・農産物の輸出国として知られる。肥沃(ひよく)な土地と、パラグアイ川を含む豊かな水資源に恵まれた同国だが、近年は、世界でもまれにみるスピードで森林の伐採が進んでいる。

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レダが行った稚魚放流式に参加したバルア局長(2015年)

 森林伐採に関しては、パラグアイの国会が法律の整備などを進めているが、海外から押し寄せる膨大な投資や開発スピードに追いついていないのが現状だ。パラグアイの経済も牛肉や大豆などの輸出に支えられて好景気が続いており、経済ブームに水を差しにくい状況もある。

 一方、先住民語のグアラニー語を標準語とするほど先住民文化が残るパラグアイだが、多くの先住民はパラグアイの経済成長から取り残されている。先住民も居住地では木を切り倒すことで生活の糧を得ている。

 また、パラグアイの食文化は「肉食」が中心となっている。同国の食文化も、国が豊かになるほどに牛肉の消費量が増え、遊牧地を作るためにさらなる伐採が行われることにつながっている。輸出や経済を支える牧畜・農業と、肉食の食文化が、パラグアイの自然破壊を加速させているというわけだ。

 こうした中、パラグアイの開発を持続可能な方向に変えていこうという試みが行われている。その一つが、パラグアイ農牧省水産局が進めている魚の養殖事業だ。

 スザナ・バルア水産局長は、「養殖地を選ぶ場合は、環境を破壊する必要がなく、見捨てられた土地の再生を心がけています」と養殖事業の理念を説明する。

 養殖場では、同じ敷地内で豚の飼育や野菜の栽培も手がけ、豚の排泄物を魚のえさとして利用してするなど「循環」をテーマとした事業も行われている。

 バルア局長は、「養殖であれば、300平方㍍の土地で年間500㌔以上の魚を育てることができます。一方、牧畜では2・5㌶(2万5000平方㍍)もの土地を使っても2年以上かかって300㌔がやっとです。それに牧畜では休養地も必要となるので、実際の生産性はさらに低いのです」と養殖の桁違いの生産性を強調する。

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小学校で魚の食育を啓蒙、中央左上は台湾から招聘した専門家

 これまで、先住民たちは木を切り倒したり、川の魚を捕るなど資源を消費することで生計を立ててきた。水産局は現在、首都アスンシオンに近い先住民居住地で養殖事業を進めており、木を切り倒さない空き地を利用した養殖事業を推進させることで、自然保護と先住民の生活レベルの向上を同時に図ろうとしている。

 台湾からは、定期的に大学の専門家などが訪問している。パラグアイは、南米で唯一台湾と国交を結んでいる国として知られるだけでなく、日系移民が多い南米随一の親日国でもある。

 さらなる養殖事業の発展を進めるために、水産局は国民の「食育」にも力を入れている。肉食中心のパラグアイでは、魚の普及は容易ではない。そのため、各種イベントなどを通じて魚のメリットを紹介したり魚料理を紹介、魚に接してもらう活動を続けている。

 このような継続的な努力の結果、10年前に比べて魚の消費量は倍増、昨年は25%もの消費拡大があったという。

 また、近年は、「将来の世代に向けた食育」ということで、学校の教育現場での魚料理の提供にも力を入れている。

 一方、バルア局長は、パラグアイの養殖において、同国北東部の極僻地「アルト・パラグアイ県」で日本人が手がけているレダの養殖事業は忘れてはならないものだと強調する。

 「本当に何もない極過疎地で養殖事業を成功させていることに敬意を表します。まさに、世界の極僻地でも事業を起こすことができるというモデルケースだと思います。また、自然を守りながら事業を進めていることにも感銘を受けています。先住民の人たちに対しても、ただ単に何かを与えるのではなく、養殖などの訓練を施しながら共生しようと努力しているところが素晴らしい」

 パラグアイの養殖の未来について、「パラグアイは工業力などに優れた国というわけではありません。ただし、効率性は劣っていても、自然との共生や持続性を重視して、人々の生活向上を図りたい。養殖を通じてそのような社会作りを目指しているのです」と抱負を語る。