「普選改革案否決」の責任とらぬ行政長官
二極化する香港 識者インタビュー(2)
公民党名誉主席・立法会議員 梁家傑氏
香港民主派を代表する公民党名誉主席の梁家傑(アラン・リョン)立法会議員に今後の香港政局の現状と課題について聞いた。
――昨年8月末に全国人民大会代表常務委員会が決定した2017年の行政長官選挙に関する選挙改革案が6月17日、香港立法会で審議され、18日に否決された。中央政府の提示する普通選挙改革案が廃案になることで17年までに選挙改革はできず、むしろ、梁振英行政長官の続投に道筋をつけてしまったとの批判もあるが、梁振英行政長官への評価と今後の見通しはどうか。
法案を策定し、施行するかどうかの最終責任は政府にある。18日に選挙改革法案が否決された責任は香港政府にあり、中国政府の駐香港中央連絡弁公室(中連弁=旧新華社香港支社)の張暁明主任、最高責任者である梁振英行政長官にあることは明らかだ。
梁行政長官は法案否決で今後は市民生活向上に関する民生政策に集中すると話す一方で、公民党とも直接会って9月3日に北京で行われる反ファシスト抗日記念70周年記念行事や年末の中国訪問視察団に参加するように誘い、巧妙に揺さ振り、瓦解させようとしている。
一連の梁行政長官の言動は法案否決の責任から逃れたい手練手管だ。責任が追及されないように政府ナンバー2の林鄭月娥政務官に転嫁してみたり、民主派が政府の意図を曲げて否決させたと言い訳したりしているのは辞任圧力から逃れたいためだ。
――7月2日、梁振英行政長官が公民党の立法会議員団と会談し、香港政府と野党の公民党、民主派との関係は変わっていくのか。
17年3月の行政長官選挙で次の行政長官をだれにするか、中央政府が本命を内定するのは16年7、8月ごろまでだろう。特に16年8月には中国で全国人民代表大会(国会に相当)が行われるので決まるはずだ。よく考えてみると、中国側は次期行政長官候補を内定するまで1年しかない。残り1年で梁振英氏が発表した政治綱領を本人がどこまで達成させるのか、客観的に確認する必要に迫られている。例えば退職者手当を全市民に行うとか労働時間の標準化や環境条件の改善を約束したが、審議段階だけで実行の目途がついていない。公約をほとんど実現していないのが実情だ。
政治改革に対する政策方針も問題だ。虫歯がある人に抜歯してインプラントするかどうか。梁行政長官の治療法は抜歯せず、痛み止めの注射をしただけの応急処置治療。残り2年でどこまでできるか、明解な納得できる回答が得られない。
――17年の次期行政長官をだれに内定するか、梁振英氏が続投するか、キングメーカーは中国指導部という構造は変わらないということか。
次期行政長官をだれにするか、習近平国家主席が答えない限り、分からない。ただし、はっきり言えるのは梁振英氏は非常に陰険で自分の競争相手には不利な立場に立たせる権謀術数を使う。12年の行政長官選挙でも対抗馬だった唐英年元政務官のスキャンダルが出た時、唐英年氏個人だけでなく、その家族にも不正疑惑があることを流し、唐英年氏は対応で苦戦を強いられた。もし、次期行政長官選挙でも対抗馬が出てくれば、唐英年氏と同じような苦渋を味わうことになるだろう。
若い世代育て中央政府と対話を
――返還18周年を迎えて20周年になれば一国二制度50年の5分の2が過ぎる。一国二制度は矛盾ばかりで評価できないものなのか。基本法の修正を含め、改革に望みはあるのか。返還50年で香港はどこまで民主化されるべきか。中国の人権、政治状況をどう評価するか。
普通選挙改革案を否決にするために立法会議員の4割が反対票を投じたということは、まだ、香港は何が真理で何がニセモノか見識眼を持っている。一国二制度の期限は2047年6月までで32年しか残っていない。不動産ローンも30年ローンがあるわけで、そろそろ討論して最終結論を出さないといけない時だ。
一国二制度の定義についても、主権を持つ中国が高度な自治を最終決定するという解釈で、使える権力は最大限使いこなした形だ。香港人から見れば、使える権力はあっても、最後まで潜在的に取っておくという形で見方が全然違う。香港基本法が制定された際の目的から時間がたつほど、かなり離れて行っている。とくに若い世代、たとえば香港の学生団体「学民思潮」代表の黄之鋒氏らが47年には中央政府と対話しないといけない時代になるので、彼らが香港独立論を主張するようでは将来が不幸になる。彼らが私のような立場に立って対応できる民主派の人材に育ってほしい。
(香港・深川耕治、写真も)