辺野古移設問う名護市長選、来月4日投開票

政府与党対翁長知事の“代理戦争”

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設が予定される名護市の市長選が来月4日、投開票される。移設に反対する翁長雄志知事が支援し3選を目指す現職の稲嶺進氏(72)=民進、共産、自由、社民、社大推薦、立憲支持=と、自民、公明、維新が推す元名護市議、渡具知武豊氏(56)が立候補した。政府与党対翁長知事の代理戦争の様相でもあり、結果は11月に予定されている知事選の行方を左右するものとみられている。(那覇支局・豊田 剛)

渡具知氏が経済低迷を問題視、基地問題批判に偏る稲嶺陣営

辺野古移設問う名護市長選、来月4日投開票

出陣式で稲嶺進氏(右)の応援演説をする共産党の赤嶺政賢衆院議員(中央)と翁長雄志知事=28日午前、沖縄県名護市大中

 名護市の中心部はシャッター通りが目立つ。1人当たりの市民所得は192万7000円(2014年度)で、県平均の212万9000円を下回る。

 誘致策も後手後手だ。日本ハム・ファイターズ1軍の名護キャンプは、一昨年前から2次キャンプのみとなった。今年は2月17日から23日までしか滞在しない。球場などの施設改修については日本ハムが長年、名護市に要望を出していたものの、前向きな回答がなかったことが影響している。現在、球場の改修が行われているものの、国からの補助率が50%で、那覇市営球場の補助率75%と比べると、市民の負担は大きい。

 米軍再編に協力する自治体が受け取る交付金は、稲嶺市政になってストップした。2期8年間で約135億円の損失となる。東村の伊集盛久村長は、「北部町村の玄関口である名護の経済が良くなければ北部やんばる全体に影響を与える」と語る。そのため北部地区12市町村の首長9人が新人を支援している。

 ただ、その名護にあって、辺野古移設が最大の争点となることは避けられない。

 自公維新が推す渡具知氏は市議時代から移設容認の立場をとる。公明との選挙協力という事情から、「推進」「容認」という言葉は避け、司法の判断に任せるというスタンスだ。

辺野古移設問う名護市長選、来月4日投開票

出陣式で渡具知武豊氏(左)の応援演説を行う自民党の三原じゅん子参院議員=28日午前、名護市大南

 一方の稲嶺氏は28日の出陣式で、「私は絶対に辺野古の海を埋め立てさせない」と強調した。応援弁士は、渡具知陣営が辺野古に一切触れないのは「争点隠し」と批判した。

 これに対し、自民党の三原じゅん子参院議員は同日、渡具知氏の出陣式で「停滞した8年間に終わりを告げる時が来た」と訴えた。出陣式で辺野古移設に言及する弁士はいなかったが、自民党県連幹部は「2期8年かけて止めることができなかったのに、できるはずがない」と語った。前回は移設問題への深入りを避けて自主投票だった公明は今回、態度を明確にして渡具知氏を推薦した。支持母体の創価学会員の間でも「誰が市長になっても辺野古移設は止められない」という考えが主流だ。

 勝敗が今秋の県知事選の行方を大きく左右することも間違いない。

 昨年末には菅義偉官房長官、年始の仕事始めと告示前日には自民党の二階俊博幹事長が地元に入って業界を引き締めるなど、総力戦を展開している。31日には小泉進次郎筆頭副幹事長が3カ所で演説し、最終盤の戦いに備える。

 稲嶺陣営は、昨年末から全国の労組や平和団体が名護に入って精力的に活動している。中でも目立つのが共産だ。志位和夫委員長、山下芳生副委員長、小池晃書記局長ら幹部が連日のように入っている。告示日前日には志位氏に加え、社民党の吉田忠智党首、自由党の小沢一郎代表がそろい踏みした。

 翁長氏に至っては告示日までに5回も名護に入り各地で演説。稲嶺氏の総決起大会が行われた23日には、翁長氏は公務をほとんど入れず、20カ所を遊説するという熱の入れよう。同大会で翁長氏は「米軍基地は沖縄経済発展の最大の阻害要因」と持論を展開、政府が自動車専用道路の未開通区間の工事前倒しを計画していることについて、「(経済を)基地と引き換えにしてはいけない」と訴えた。

 政府批判ばかりが目立ち、建設的なビジョンが少ない中で飛び出したのが、市内の自然動物公園「ネオパークオキナワ」にパンダを誘致するという構想だ。1頭のレンタル代と飼育費で年間約3億円かかると試算されている。翁長氏は19日の定例会見で「蓋然性が高い」と述べ、できる限りの協力を約束した。

 これに対し、渡具知陣営は「3億円は給食費や医療費など福祉に充てるべきだ」と反撃。むしろ、パンダ誘致が争点として盛り上がることを歓迎している。

 「ワンイシュー(辺野古移設反対)に重点を置きすぎるあまり、現市政は住民サービスに対する意識が欠ける」と渡具知氏は批判。魅力的な街づくりや子育て支援に重点を置くことを約束した。

 名護市長選の前哨戦だった南城市長選(21日)は、翁長氏を支持する革新系新人が、反翁長知事の急先鋒だった現職を僅差で破った。続く28日の八重瀬町長選では、自公が推す新垣安弘氏が初当選を果たした。「これでようやく相手に並んだ。さあ、ここから」。自民党県連幹部は視線を名護市長選に向けた。