米企業、中国で謝罪ドミノ

特報’18

台湾など「国扱い」で当局圧力

 米ホテルチェーンのマリオットインターナショナルなど中国に進出する米企業が、台湾や香港などを「国」として扱ったとして、謝罪に追い込まれる事態が相次いでいる。これらを「不可分の領土」と主張する中国政府が、こうした企業にウェブサイトの閉鎖を命じるなど、圧力を加えたためだ。巨大市場を背景に外国企業への干渉を強める中国に対し、「危険なレベルに達している」(米メディア)などと、懸念する声が上がっている。
(ワシントン・山崎洋介)

メディアや議員ら危機感
「干渉 危険レベルに」

 11日、マリオットが、中国当局からインターネット安全法違反の疑いなどで、一時的に中国向けのウェブサイトを閉鎖し、モバイル向けアプリも停止するよう命じられた。同社が顧客向けアンケートフォームで、台湾、香港、マカオ、チベットを中国とは別の国として分類したというのがその理由だ。同社のツイッターアカウントが、チベットの分離・独立を支持するグループの投稿に「いいね」をつけたことも当局に問題視された。

JWマリオット

米ワシントン市内にある米ホテルチェーン、マリオットインターナショナル傘下の「JWマリオット」

 台湾や香港などを別の国として扱うことについて、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(23日付)は「完全な間違いとは言えず、特に台湾には明確な境界があり、それを守る軍隊を持ち、民主主義が機能するなど国家としての特徴は多い」と指摘している。

 しかしマリオットは、「中国の主権と領土の一体性を覆すいかなる組織も支持しない」と謝罪文をホームページサイトに掲載。関係者に対し、解雇を含む処分を行うとした。

 また、同社のアジア太平洋地域プレジデントのクレイグ・スミス氏は「これは大きなミスだ。おそらく私のキャリアの中で最大のものだろう」と国営の英字紙チャイナ・デーリーに述べ、謝罪した。

 ワシントン・ポスト紙(21日付)で、米シンクタンク、ウィルソンセンター・キッシンジャー米中関係研究所のロバート・デーリー所長は、スミス氏の謝罪について、「非常に惨めで、今後、中国が謝罪を要求する際、これが一つの基準になるかもしれない」と危惧する。

 その後、マリオットに続き、米デルタ航空、米医療機器大手の「メドトロニック」なども、台湾などを独立した国のように扱っているとして、中国当局からの調査を受けた。各社は中国当局の要求に従い、ホームページの修正と謝罪を行った。

 中国によるネット上での言論統制をめぐっては、米IT大手アップルが昨年、中国の要求に従い、同国の検閲システムを回避するアプリを削除したことが分かっている。中国政府の圧力に米企業が相次いで屈する事態に、米国のメディアや議員らは危機感を示している。

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのジョシュ・ロギン氏は、同紙21日付(電子版)で、中国政府による外国企業への圧力が「危険なレベルに達している」と警鐘を鳴らした。中国は、「政府の権力や煽(あお)られた国民の怒り、国営メディアによる否定的報道などでその政治的主張に従うよう、米国企業に圧力をかけている」と指摘する。

 共和党のテッド・クルーズ上院議員は、ロギン氏の取材に対し「数十年の間、中国共産党は、一党独裁体制を脅かすテーマや意見に関して、国内で言論統制を行ってきたが、今では米国企業の事業運営にまで干渉する情報戦を展開している」と批判した。

 また、共和党のマイク・ギャラガー下院議員は、「中国が米企業に対して脅しや統制などで厚かましさを増す中、米国はこれに対抗するために官民共同の取り組みをすべきだ」と対応策の必要性を訴えた。