菅後継宰相に必要な3条件

東洋学園大学教授 櫻田 淳

「安倍・菅」路線の外交継承
社会の「ダイナミズム」恢復を

櫻田 淳

東洋学園大学教授 櫻田 淳

 9月3日、菅義偉(内閣総理大臣)は、実質上の退陣表明に及んだ。菅の政権運営における失速は、専ら新型コロナのパンデミック(世界的大流行)対応への不満によるものである。要するに、国民各層にとって、「食べたい料理を出してもらえなかった」という結果にすぎない。だから、国民の関心があまり向いてはいなかった対外政策面でも、その対応がまずかったという評価にはならない。

 日米関係を含めて、「西方世界」同盟網の構築への関与について言えば、菅は安倍晋三前内閣の方針を滞りなく引き継ぎ、上手(うま)くやったという評価になる。それは、間違いないだろうと思われる。台湾認知の流れを止めなかったのは、確かに、功績として残るであろう。

普通の国への動き推進

 この機に、「それならば、櫻田は菅後継として誰が相応(ふさわ)しいと考えているのか」と問われるかもしれない。結論から言えば、「誰でも宜(よろ)しい」のである。ただし、次の三つの条件は満たしてもらう必要がある。

 ①対外政策展開における「安倍・菅」路線を確実に継承する。

 ②「普通の国」への動きを着実に進める。

 ③社会における「ダイナミズム」を恢復(かいふく)することに精励する。

緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象地域の追加を決め、記者会見する菅義偉首相=14日午後、首相官邸(代表撮影)

緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象地域の追加を決め、記者会見する菅義偉首相=14日午後、首相官邸(代表撮影)

 次期自民党総裁には、自民党という保守主義政党を率いるのであれば、特に条件③の「ダイナミズムの恢復」には留意してもらう必要があろう。「保ち守る」ためには「自ら改まる」ことが大事であるけれども、「自ら改まる」ためには相応の「活力」や「ダイナミズム」が要るのである。「世代交代」も「多様性の尊重」も、その「ダイナミズム」の確保や維持のためには、重要な要素である。

 「旧套(きゅうとう)墨守」や「停滞」を印象付けるようなことがあってはならない。それは、宰相としてパンデミック下の国民各層に相対する際には、最も大事な姿勢である。パンデミック収束後、社会や経済における「ダイナミズム」を恢復させるという意志を明示することが、現下の政治の文脈では重要である。

 片や、自民党に対峙(たいじ)する野党の動きに目を転ずれば、9月8日、立憲民主、共産、社民、れいわ新選組の野党4党は、野党共闘を呼び掛ける市民団体「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)との政策合意に調印した。この政策合意には、「安保法制や特定秘密保護法の違憲部分の廃止」が含まれている。

 特に立憲民主党は、社民党が何故(なぜ)、泡沫(ほうまつ)政党化したかの教訓を全然、引き出せていないようである。というのも、立憲民主党は、社民党と同様、安全保障法制廃止という政策選択肢に反映された「憲法第9条護憲主義」への帰依に走っているからである。

 それは、村山富市内閣時の阪神・淡路大震災対応、菅直人内閣時の東日本大震災対応を経ても、立憲民主党が、「自衛隊を機敏に動かす」という安全保障政策上の必要性を理解できていなかったということを意味する。「愚か者は自分の経験から学ぶ」という言葉に倣えば、彼らは、自分の経験からも学ばない「愚者以下」の存在なのであるという評価を免れまい。

 安全保障法制の扱いに関して言えば、仮に立憲民主党が「安倍晋三が厄介な仕事を片付けたから、自分たちはその成果だけは利用させてもらおう」と平然とふんぞり返る面の皮の厚さを発揮してくれるならば、筆者も、その政治姿勢を幾分かでもポジティブに見直すであろう。

 実は野党においてこそ、前に挙げた菅後継宰相の3条件の内、①と②の条件を満たすことが、政権獲得だけではなく、その後の政権運営に頓挫しないために越えるべき「ハードル」なのである。

「豹変」できぬ立憲民主

 実際には、立憲民主党は、政治の営みには相応しくない政策上の「潔癖性」に縛られた結果、こうした「君子豹変(ひょうへん)」に踏み切らないのであろう。菅退陣という事態は、安倍晋三(前内閣総理大臣)以来の「新55年体制」の構図を寧(むし)ろ堅固に定着させるのではないか。(敬称略)

(さくらだ・じゅん)