自民総裁選、政策論争活発化で衆院選の追い風に

 自民党の菅義偉総裁の辞任に伴い、自民党総裁選が29日投開票される。4候補のうち、3人が沖縄担当相の経験者で、県内でも認知度が高い候補ばかりだ。菅氏の辞任で政策論争が活発になり、自民党に追い風が吹き始めていることで、国政野党の衆院議員は危機感を募らせている。(沖縄支局・豊田 剛)


國場・西銘氏は岸田氏、宮崎氏は河野氏を支援へ

 沖縄県選出の自民党国会議員3人のうち、國場幸之助、西銘恒三郎両衆院議員は岸田文雄前政調会長、宮崎政久衆院議員は河野太郎行政改革相を推す。また、沖縄出身の今井絵理子参院議員は麻生太郎財務相率いる麻生派(志公会)メンバーとして岸田氏の推薦人に名前を連ねた。

 岸田氏は、第1次安倍内閣と続く福田内閣で沖縄担当相を担当し、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の開学準備に携わった。沖縄振興の推進を掲げる自民党の「美ら島議員連盟」で会長を務め、22年度以降の振興策を検討する党の沖縄振興調査会で議論に加わった。外相時代の15年には、日米地位協定の環境補足協定、17年には軍属の範囲を明確化する補足協定を締結した。尖閣諸島を含めた島しょ防衛では、海上自衛隊と海上保安庁の連携強化を訴えるだけでなく、日米同盟の強化も掲げる。

自民総裁選、政策論争活発化で衆院選の追い風に

街頭で岸田氏の支援を求める國場幸之助衆院議員=18日、沖縄県那覇市の首里(豊田剛撮影)

 岸田派に所属する國場氏は、岸田氏の支持拡大に向けて電話かけや街頭演説など運動を活発化している。経済政策や外交・安全保障政策を評価するだけでなく、沖縄に思いを寄せる候補として信頼を置く。自身のツイッターで、「岸田文雄候補は沖縄を応援する美ら島議連会長でもあり外務大臣時代にも地位協定の環境補足協定、軍属の見直しなど沖縄問題を我が事として取り組んできた」と評価した。

 西銘氏は、岸田氏について「沖縄応援団の1人。沖縄と同様に戦火をくぐった広島から世界平和を発信していくのに最適の総裁候補だと確信している」と発信した。

 河野氏は第3、4次安倍内閣で外相、防衛相を歴任。さらに菅内閣で沖縄担当相も務めるなど、長期間にわたり沖縄に関与してきた。

 宮崎氏は、党内の派閥横断の若手・中堅議員グループ「党風一新の会」に参加。同グループ内で評価が高いとされる河野氏に付いた。宮崎氏は河野氏について「発信力、突破力、実行力が傑出している」と指摘。地方への理解が深く、中でも、来年で日本復帰50年となる沖縄の新たな振興計画の策定にも携わり、沖縄との縁も深い」と支持の理由を明かした。

 高市早苗前総務相は、第1次安倍政権で沖縄担当相を務めており、特に県内の保守層にファンが多い。組織的応援がない中、どれだけ支持を広げられるかは未知数。野田聖子幹事長代行は1998年に発足した小渕内閣の郵政相として情報通信産業の集積を図る「沖縄マルチメディア特区構想」を推進したが、県民の記憶にはほとんど残っていないのが現状だ。

 自民党沖縄県連は、各支部長の意思を尊重するものの、組織としては特定候補の応援はしないというスタンスを取る。20日現在、岸田氏と河野氏の支持が広がっている感触だという。

 県連は、菅総裁の辞任がきっかけで政策論争が活発になり、衆目を集めていることを歓迎する。ある県連幹部は「菅総裁、二階(俊博)幹事長ラインでそのまま衆院選に突入した場合、かなり厳しい結果が予想されただけに、総裁選の盛り上がりは追い風になる」と期待を寄せる。

玉城県政支えた有力企業も鞍替え、革新勢力に危機感

自民総裁選、政策論争活発化で衆院選の追い風に

合同で演説会を行った革新系の衆院選立候補予定者=17日、沖縄県那覇市の県庁前(豊田剛撮影)

 ここにきて、自民にさらなる追い風が吹いている。翁長、玉城両知事を経済界側から支えてきた革新系の「オール沖縄県民会議」の一翼を担っていた小売・建設大手の金秀グループの呉屋守将(もりまさ)会長が、玉城県政を支持せず、衆院選では自民候補を支援すると表明した。呉屋氏は昨年10月、玉城知事の後援会長を辞任しており、革新勢力とは距離を置き始めていた。

 ある金秀関係者は、オール沖縄は米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対のワンイシューでまとまっていたが、「経済をどうするか、県民生活をどう豊かにするかという展望がまったく見えなかった」と指摘した。

 こうした中、国政野党の次期衆院選立候補予定者は16日と17日にかけて、沖縄1区~4区の合同演説会を開いた。現職、新人の4人が登壇し、全員が辺野古移設反対や政権交代の実現を掲げ、「県民の声を国政に伝えるために勝たせてほしい」と支持を求めた。

 沖縄1区選出の赤嶺政賢衆院議員(共産)は「誰が総裁になっても沖縄政策は変わらない」とした上で、「政権交代しなければ、沖縄県民の心は中央に伝わらない。全野党と市民連合の政策に基づき、新しい政権を選んでいこう」と訴えた。


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沖縄県における総裁選

 沖縄県では約9000人に投票権がある。党員票は沖縄県連が集計した得票数を党本部が一括集計。国会議員の票(3人)の数と同じになるように換算され、得票数に応じて各候補に比例配分される「ドント方式」で配分される。