侮辱罪厳罰化へ、ネット上の卑劣な犯罪防止を
インターネット上の誹謗中傷に対処するため、上川陽子法相が刑法の侮辱罪を厳罰化する法改正を法制審議会(法相の諮問機関)に諮問した。
ネット上の中傷被害を受けた中には自殺した人も出ている。厳罰化は当然だ。
中傷被害が社会問題化
侮辱罪の法定刑は、刑法で最も軽い科料(1000円以上1万円未満)か、2番目に軽い拘留(1日以上30日未満の拘置)となっている。法制審には「1年以下の懲役もしくは禁錮、30万円以下の罰金」を追加する案を諮問。法定刑が引き上げられれば、公訴時効も現行の1年から3年に延びることになる。
侮辱罪は、公然と人を侮辱した行為に適用される。明治時代からあるもので、もともとは悪口を人前で言ったり、家に張り紙をしたりする行為が想定されていた。
ネット上の中傷被害は近年、社会問題化している。昨年5月には、民放番組に出演していた女子プロレスラーの木村花さんが、インターネット交流サイト(SNS)で中傷され、自ら命を絶った。
今年7月開幕の東京五輪に出場した競泳女子の池江璃花子選手は5月、出場辞退や開催反対を表明するよう求めるコメントがSNSで寄せられているとツイート。「非常に心を痛めたメッセージもありました」などとつづった。体操女子の村上茉愛選手も、SNS上の誹謗中傷に苦しんだことを涙ながらに明かしている。
木村さんの事件では、投稿者2人がそれぞれ侮辱罪で科料9000円の略式命令を受けた。だが、一人の人間を死に追いやった行為への罰則としてはあまりにも軽い。
また、木村さんのSNSに送られた中傷は約300件に上ったという。しかし投稿者の特定に時間がかかったため、大部分は摘発されなかった。このようなことをなくすためにも、法定刑を引き上げて時効を延ばすことは妥当である。
上川氏は諮問の際に「こうした行為は、厳正に対処すべき犯罪であると示す必要がある」と強調した。早ければ来年の通常国会に改正法案を提出する。卑劣な犯罪を防止するため、早急に厳罰化を実現すべきだ。
厳罰化によって「表現の自由」が脅かされることを懸念する向きもある。とはいえ、憲法13条に「公共の福祉に反しない限り」とあるように自由は無制限ではない。
自由をはき違え、SNSで他人を中傷して心に深い傷を負わせる者がいる以上、罰則の強化は当然だ。各国では、侮辱罪や名誉毀損罪の厳罰化、SNS事業者に悪質投稿への対応義務や違反時の罰則金を課す法整備などが進められている。
道徳教育を充実させよ
木村さんの母響子さんは、昨年の時事通信のインタビューで「中傷は人の生きる気力を奪ってしまう」と指摘。「ネットリンチは、やっている人に加害者意識が全くない。SNSで他人を批判する前に、自分に向き合ってほしい」と訴えた。
悲劇を繰り返さないよう、学校でも道徳教育やSNS教育を充実させる必要がある。