拙速慎むべきLGBT理解増進法案
麗澤大学大学院特任教授 高橋 史朗
後天的要因大きい同性愛
最新の科学的研究に学ぶ必要
「LGBT理解増進法案」をめぐって、5月20日に開催された自民党の会合(「性的指向・性自認に関する特命委員会」等の合同会議)で山谷えり子参議院議員らの「差別発言」に批判が高まり、「発言の撤回や謝罪を求める署名やキャンペーン」が始まり、2日間で5万人を超える署名が集まった。NHKニュースは別の衆議院議員が「LGBTは種の保存に反する」という趣旨の発言をしたことを顔写真入りで批判した。
同性愛者などの性的少数者(LGBT)の人権は尊重しなければならないが、「LGBT理解」を増進するための法案審議において開陳された個人の見解に対して、「発言の撤回や謝罪を求める署名やキャンペーン」が展開されている事態を重く受け止める必要があるのではないか。
「差別禁止法」への変質
問題視されたのは「性的指向および性自認を理由とする差別は許されない」とする同法案の目的と基本理念である。「性自認」は公明党と立憲民主党、「差別は許されない」は立民への配慮によるもので、「理解増進法」から「差別禁止法」へと法案の趣旨が変質してしまった。同法案第2条によれば、「性的指向」とは、「恋愛感情又は性的感情の対象となる性別についての指向」であり、「性自認」とは、「自己の属する性別についての認識に関する性同一性の有無又は程度に係る意識」をいう。
LGBTが直面しているいじめ被害・不登校・自傷行為・自殺未遂などの現状を十分に踏まえて、学校教育において性的少数者に対して十分に配慮する必要があるが、異性の関係で成り立っている婚姻制度や思想信条の自由などについてもしっかり教える必要がある。
令和4年度から使用される高校家庭科教科書は、同性婚の合法化が世界の大勢であるという印象操作を行い、同性婚の導入を推進するような一方的な書きぶりが目立つが、同性婚の導入によって、結婚は個人の愛情と自己決定だけの問題になり、「子供の福祉」の視点が欠落してしまう点が見落とされている。
同法案第7条は、「性的指向及び性自認の多様性に関する当該学校の児童等の理解の増進に自ら努める」と明記しているが、「性的指向及び性自認の多様性」については、「同性愛の誘発要因」に関する科学的研究の最新の成果も踏まえる必要がある。
一昨年出版された、吉源平他5名の教授の共著『同性愛は生まれつきか?―同性愛の誘発要因に関する科学的探究』において、吉源平氏は「同性愛を擁護する教育をすれば次世代の性に対する意識が歪曲(わいきょく)され、西欧のように同性愛が合法化されてしまう。それで、教師たちに同性愛についての正確な意識を知らせることが必要であると判断」して同書を刊行したという。
同書によれば、1990年代初めに同性愛は生まれつきであるという、意図的に歪曲された科学論文があふれ、同性愛を擁護する学者と団体の意のままに、同性愛を遺伝的、先天的なものと誤解するようになったが、10年後にその間違いが明らかになったという。
同書の結論は以下のごとくである。①2000年以後の大規模調査によって双子の同性愛一致比率が1割程度であることが判明し、同性愛が先天的に決定されるものではないことが明らかになった②同性愛は遺伝であるという研究結果(遺伝子など)はすべて否認された③同性愛が胎児期において子宮で受ける性ホルモンの影響によって先天的に生まれ持ったものだという研究結果も証明されなかった④同性愛者の脳が一般人と違いがあるという主張も証明されなかった⑤同性愛形成に遺伝的な要因よりも環境や学習のような後天的な要因が大きい⑥同性愛は環境や要因の影響を自身の意志の選択によって受け入れたのち、強い依存症によって繰り返されることによって形成される性的行動様式である。
逆差別で学校教育混乱
LGBTの「理解増進」のためには、こうした科学的研究にも学ぶ必要があり、法案作成の前に「性的指向および性自認」の基本認識について、同著者や翻訳者(弘前学院大学の楊尚眞教授)を法案審議の場でヒアリングする必要があり、拙速な法案作成は厳に慎むべきである。法律で差別を禁止することによって訴訟が乱発し、欧米のように逆差別によって学校教育などが大混乱に陥ることは必至である。
5月24日の自民党の会合で与野党の修正合意案を条件付きで了承し、法案審議の場での質疑を条件としたが、楊教授が産経新聞(3月28日付、5月23日付)で詳述している問題点について国会審議を尽くすよう強く求めたい。
(たかはし・しろう)